私的整理の類型

 私的整理にはどのような類型があるのでしょうか。

1 清算型と再生型

私的整理は、その目的に応じて、清算型と再生型の手続に分けることができます。
清算型の手続では、破産手続によらずに会社を清算することになります(任意清算)。準則型の手続としては、廃業支援型特定調停とREVICによる特定支援があります。そのほか、特別清算にて任意に整理することも昔から行われていました。

2 再生型の金融支援の手法

再生型の手続は、金融機関からの金融支援によって事業再生を目指すことになります。具体的な金融支援手法としては、以下のものが一般的です。

(1)リスケジュール

リスケジュールとは、金融機関と交渉し、借入金元本の返済条件を変更して(当初約定よりも緩和して)、弁済額の減額あるいは据え置き期間を置いて、返済期間を繰り延べることによって、窮境に陥っている会社の資金繰りを改善させる方法です。
借入債務の総額自体は変更せず、毎月の返済金額自体(返済条件)を減額(変更)してもらうことです。

(2)債権カット

債権カットとは、金融機関が一部の債権を放棄(債務免除)することによって、会社の資金繰り(返済対象元金債務の削減+金利減少)のみならず財務内容まで抜本的に改善させる手法です。
債権者に直接「債務免除」を求める方法のほかに、会社分割や事業譲渡等により「第二会社」を立ち上げて、この「第二会社」に事業上の資産・負債を承継させる第二会社方式という手法があります。第二会社方式では、特別清算手続において、事業譲渡等を行った会社(旧会社)に対する債権の放棄を受けることによって、実質的に債権カットを受けることになります。

(3)DES(Debt Equity Swap)

DESとは、金融機関からの借入債務を資本に転換する手法です。負債が減った分がそのまま資本に振り替えられますので、債権放棄と同様に会社の財務内容まで抜本的に改善させる手法です。
金融機関がDESを実行する場合、金融機関にはいわゆる5%ルールというものがあります。これによると、金融機関は対象となる会社の議決権額の5%を超えて議決権を取得・保有することが禁じられています。中小企業の場合には議決権の5%の金額は極めて少額でしょうから、財務改善効果は限定的となる場合が多いと思われます。議決権のない株式(種類株式)を利用することで、5%ルールの適用を回避することは可能ですが、金融機関が非上場会社の株式を取得しても売却は難しく、EXITの面では別途調整が必要となります。

(4)DDS(Debt Debt Swap)

DDSとは、既存の借入債務の償還条件を変更して、他の一般債権よりも返済順位を劣後化させる手法です。劣後化の対象となった元本は一定期間返済が棚上げされることとされております。
DDSは、借入債務の総額は減少しない点で、一種のリスケジュールと言えます。もっとも、対象期間(5年以上が要件とされております。)中の利率は事務コスト程度(具体的には0.4%程度)まで減額することが一般的であり、債権カットの場合と同等程度の資金繰りの改善効果が期待できます。例えば、「中小企業再生支援協議会版資本的借入金」があります。

(5)融資等

今後、メインバンク等が融資を行うこと、金利を減免することも金融支援の一つと言えるでしょう。


3 自主再建型とスポンサー型

事業再生を担う主体に応じて、自主再建型とスポンサー型に整理することができます。

自主再建型では、事業再生に着手した時点の経営者が、引き続き、経営権を維持したままで(必要に応じて、親族内の後継者に事業承継をしつつ)事業再生を目指すことになります。

これに対して、スポンサー型では、経営者が、経営者以外の第三者(スポンサー)に対して、経営権または事業を譲渡したうえで、新しい経営者のもとで事業再生を目指すことになります。
自主再建型になるかスポンサー型になるかについては、事業の特質、後継者の有無、金融支援の内容、経営責任の程度といった事情が考慮されることになります。


金融支援の内容と経営責任の程度に着目した場合、一般的には、リスケジュール、DDSといった債権カットまで踏み込まない場合には自主再建型が容認されやすいと言えます。反対に、金融機関に対して債権カットを伴う金融支援が必要となる場合には、スポンサー型の方が受け入れられやすいという傾向がありますが(第三者に経営権を手放すことによって、十分な経営責任を履行したと評価されやすいですし、一括で譲渡対価が入るため、履行確実性の検討が不要なため)、中小企業の場合、私的整理の形では、スポンサー選定が難しいという側面もあります。そのため、自力で事業改善できる場合には、自主再建型で債権カットを要請するケースは少なくありません。 

4 準則型私的整理

私的整理のうち、一定の準則・ルールに基づいて実施されるものを、準則型私的整理といいます(企業再生税制でいうところの「準則型私的整理」とは別概念になります。)。
私的整理は、事業者と債権者との話し合いによって合意形成を目指していく手続ですが、当該手続を一定の制度化された準則・ルールに基づいて進めることで、手続の透明性、公正性及び公平性を確保することが可能となります。また、準則型私的整理によらない、従来型の私的整理を、純粋私的整理と呼ぶことがあります。

準則型私的整理としては、事業再生実務家協会による事業再生ADR地域経済活性化支援機構(REVIC)による再生支援スキーム、中小企業再生支援協議会による協議会スキーム、弁護士会による特定調停スキームといったものがあげられます。中小企業の再生の場面では、中小企業再生支援協議会による協議会スキームあるいは弁護士会による特定調停スキームが活用されることが多いです。なお、企業再生税制が活用できるものは、事業再生ADR、REVICの2つになります。再生支援協議会については、再生支援全国本部が関与する一部の案件のみ活用できるとされていますが、そのハードルは高いようです。特定調停スキームの場合には、企業再生税制は活用できません。企業再生税制の対象となる私的整理は、国税庁のウェブサイトをご確認ください。


近年、金融機関が積極的に事業再生型の私的整理に取り組むようになっております。金融機関主導で中小企業の私的整理を行う場合は、準則型私的整理、なかでも中小企業再生支援協議会による協議会スキームを活用することが多いです。協議会スキームでは、協議会が選定した外部アドバイザー(会計士・監査法人、経営コンサルタント。カット案件となる場合には調査報告書を作成するため弁護士も関与します。)がデューデリジェンス(財務・事業DD)及び事業再生計画の策定に関与します。外部アドバイザーの費用は事業者負担となりますが、協議会案件の場合、当該費用の助成を受けることもできますので、実質的な負担額はかなりの程度軽減してもらえるという特徴があります。