私的整理による事業再生と債務免除益対策

事業再生型私的整理(私的再建)を進めるうえで、税務上、大きな問題となってくるのが債権者である金融機関が債権放棄(債務免除)に応じた場合に無税償却できるかということです。
なお、債務者側の債務免除益対応については、第二会社方式で関連記事を書いていますので、ご確認ください。そのほか、企業再生税制の検討も大事ですが、この点は国税庁のサイトをご確認ください。

1 問題の所在

金融機関が事業再生型私的整理(私的再建)の合理性に理解を示し、債権放棄(債務免除)もやむなしと理解をしてくれたとしても、債権放棄額が税務上の損金として計上できない、つまり、無税償却できないとなると到底、再生計画に理解を示してもらうことはできないでしょう。
たとえば、(株)宮原商事は10億円の多額の債務を抱えているとしましょう。メインバンクは岡本銀行8億円と、A銀行1行2億円とします。仮に(株)宮原商事が10億円もの債務は払えないが、4億円であれば支払いができるとし、岡本銀行とA銀行が60%の債権放棄に応じたとします。ところが、この債権放棄が寄付金とされてしまうと、岡本銀行もB銀行も債権放棄が税務上の「損金」として認められなくなってしまい(有税償却)、節税メリットがなくなってしまうわけです。かかる計画であれば、税務上も問題であるだけでなく、かかる計画に同意した銀行の役員も株主代表訴訟等の責任追及をされかねず、問題となってしまうわけです。

2 直接放棄の場合(法人税基本通達9-4-2)

寄付金とされてしまうと、「損金」参入が制限されてしまうのが原則ですが、その債権放棄等がやむを得ず行われるもので、合理的な再建計画に基づくものであるなど、その債権放棄等を行うに当たって、相当の理由がある場合に限って、法人税基本通達9-4-2において、寄付金課税の対象とはせず、「子会社支援損」として損金参入が認められています。この場合の子会社等とは、金融機関にとっての取引先企業も該当するとされています。

9-4-2 法人がその子会社等に対して金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率での貸付け又は債権放棄等

(以下9-4-2において「無利息貸付け等」という。)をした場合において、その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付け等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。
(注) 合理的な再建計画かどうかについては、支援額の合理性、支援者による再建管理の有無、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等について、個々の事例に応じ、総合的に判断するのであるが、例えば、利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと認められる再建計画は、原則として、合理的なものと取り扱う。

そこで、合理的な再建計画か否かが大きなポイントになる訳です。
合理的な再建計画とは、以下の7つの基準を踏まえて、総合的に判断するとされております。
詳細は、http://www.nta.go.jp/taxanswer/hojin/5280_qa.htm

子会社等を整理又は再建する場合の損失負担等が経済合理性を有しているか否かは、次の7つの点について、総合的に検討することになります。

  1. 損失負担等を受ける者は、「子会社等」に該当するか。
  2. 子会社等は経営危機に陥っているか(倒産の危機にあるか)。
  3. 損失負担等を行うことは相当か(支援者にとって相当な理由はあるか)。
  4. 損失負担等の額(支援額)は合理的であるか(過剰支援になっていないか)。
  5. 整理・再建管理はなされているか(その後の子会社等の立ち直り状況に応じて支援額を見直すこととされているか)。
  6. 損失負担等をする支援者の範囲は相当であるか(特定の債権者等が意図的に加わっていないなどの恣意性がないか)。
  7. 損失負担等の額の割合は合理的であるか(特定の債権者だけが不当に負担を重くし又は免れていないか)。

(注) 子会社等を整理する場合の損失負担等(法基通9ー4ー1)の経済合理性の判断の留意点

「中小企業再生支援協議会」で策定を支援した再建計画に基づき債権放棄等が行われた場合、「特定調停スキーム」に基づき策定された再建計画により債権放棄等が行われた場合、合理的な再建計画にあたるかどうか照会を行い、そのような取り扱いで問題がない旨回答が得られております。

平成17年6月30日回答「中小企業再生支援協議会の支援による再生計画の策定手順(再生計画検討委員会が再生計画案の調査・報告を行う場合)」に従って策定された再生計画により債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについて」
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/bunshokaito/hojin/050630/01.htm

平成26年6月27日回答「特定調停スキームに基づき策定された再建計画により債権放棄が行われた場合の税務上の取扱いについて」
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/bunshokaito/hojin/140630/besshi.htm

3 第二会社方式の場合の事実上の債権放棄

金融機関が直接債権放棄を行う場合には、基本通達9-4-2における厳格な要件を満たす必要があるわけですが、会社分割等を活用した第二会社方式の場合には、債権の放棄は旧会社の特別清算といった法的手続のなかで切り捨てられる形で行われますので、課税リスクが軽減されると言われております。

(1)特別清算の場合

事業譲渡や会社分割後の旧会社を特別清算(協定型)で処理する場合には、法人税基本通達9-6-1(2)に規定されておりますので、無税償却が可能になります。明確に規定に記載されていますので、課税リスクは低いと言えるでしょう。

9-6-1 法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。(昭55年直法2-15「十五」、平10年課法2-7「十三」、平11年課法2-9「十四」、平12年課法2-19 「十四」、平16年課法2-14「十一」、平17年課法2-14「十二」、平19年課法2-3「二十五」、平22年課法2-1「二十一」により改正)

  1. 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額
  2. 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額
  3. 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額
    • イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
    • ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの
  4. 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額

(2)破産の場合

では、破産の場合の貸倒損失はいかなる場合に認められるのでしょうか。
破産の場合には、特別清算(や民事再生等)のように債権の権利変更(債権切り捨て)の規定がありませんので、基本通達9-6-1に規定されておりません。実務上は、破産手続終結前であっても、法人税基本通達9-6-2を使って処理されることになるのでしょう。

9-6-2 法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。

(注) 保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。

破産管財人から配当額ゼロの証明がある場合、その証明が受けられない場合であっても、債務者の資産処分が終了し、今後の回収が見込まれないまま破産終結までに相当期間がかかる場合には、破産終結前であっても、基本通達9-6-2により、その全額を貸倒損失として、当該事業年度の損金に計上できます。
破産手続終結後、配当を受けられなかった残債権については、破産手続終結により、債務者である法人が消滅することから、貸倒損失として処理されることになります(平成20年6月26日裁決参照)。
詳細は上記裁決をご覧いただくとして、簡単に事案を説明しますと、とある会社が売掛債権の全額回収ができなくなったとして、平成18年9月30日までの事業年度に、当該売掛金の回収が困難であると判断し、同年9月15日の取締役会で回収不能と認識し、当該事業年度に貸倒れ処理をしたものの、売掛先の会社の破産手続は平成11年6月に終結し、官報にも掲載されていたというものです。かかる事案について、国税不服審判所は、破産手続廃止決定又は終結決定により、当該法人の登記が閉鎖されることになり、当該決定の時点で当該破産法人が消滅することからすると、この時点において、当然、破産法人に分配可能な財産はないのであり、当該決定等により、法人が破産法人に対して有する金銭債権もその全額が滅失したものとするのが相当と解され、この時点が破産債権者にとっての貸倒れの時点と考えられるとしております。

4 貸倒引当金について

債権全額の回収不能は確定しないため、貸倒損失までは出来ないものの、貸倒引当金の繰り入れができる場合があります。特別清算・破産手続開始の申し立てが行われている場合には、その債務者に対する金銭債権の50%に相当する額を「貸倒引当金」として繰り入れることが認められています。この場合の回収見込み額が50%未満であっても、50%相当額は繰り入れ可能です(法人税法施行令96条1項3号ハ及びニ参照)。

法人税法施行令96条1項3号

当該内国法人が当該事業年度終了の時において有する個別評価金銭債権に係る債務者につき次に掲げる事由が生じている場合
(第1号に掲げる場合及び前号に定める金額を法第52条第1項に規定する個別貸倒引当金繰入限度額として同項の規定の適用を受けた場合を除く。)
当該個別評価金銭債権の額(当該個別評価金銭債権の額のうち、当該債務者から受け入れた金額があるため実質的に債権とみられない部分の金額及び担保権の実行、金融機関又は保証機関による保証債務の履行その他により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額を除く。)の100分の50に相当する金額

  • イ 更生手続開始の申立て
  • ロ 再生手続開始の申立て
  • ハ 破産手続開始の申立て
  • ニ 特別清算開始の申立て
  • ホ イからニまでに掲げる事由に準ずるものとして財務省令で定める事由

もっとも、ほとんどの案件は、清算時配当が50%を大きく下回るはずです。その場合には、以下の要件を満たせば、法人税法施行令96条1項2号により、「貸倒引当金」の繰り入れが認められます。つまり、債権全額の回収不能は確定しないが、再建の一部について実質的回収不能見込み額が合理的に算定できる場合には、その額を税務上の損金として、貸倒引当金勘定へ繰り入れできます(法令96条1項2号)

 当該内国法人が当該事業年度終了の時において有する個別評価金銭債権に係る債務者につき、債務超過の状態が相当期間継続し、かつ、その営む事業に好転の見通しがないこと、災害、経済事情の急変等により多大な損害が生じたことその他の事由が生じていることにより、当該個別評価金銭債権の一部の金額につきその取立て等の見込みがないと認められる場合(前号に掲げる場合を除く。)当該一部の金額に相当する金額

※「相当期間」とは原則1年以上とされ(基本通達11-2-6)、「業績好転見通しがない」とは、現状赤字決算が続いており、債務超過を解消するめどが立たない状態で、金融機関等の支援が受けられないため、将来の経営見通しが立たない状況をいいます。