経営者保証に関するガイドラインを活用して、幾ら残し、幾ら支払うのか。

経営者保証に関するガイドラインを活用する際に対象債権者や保証人の利害が対立するのは、幾ら残し、幾ら支払うのかという点です。言い換えれば、残存資産と非残存資産の切り分けをどうするのかということです。

1 残存資産の範囲の決定(残存資産と非残存資産の区分け)

経営者保証に関するガイドラインでは、保証債務の履行にあたり、残存資産をどの程度残すかについては、以下の点を総合的に勘案して決定されることになっています(経営者保証に関するガイドライン7項(3)③)。特にニ)とホ)が重要です。 イ)保証人の保証履行能力や保証債務の従前の履行状況
ロ)主たる債務が不履行に至った経緯等に対する経営者たる保証人の帰責性
ハ)経営者たる保証人の経営資質、信頼性
ニ)経営者たる保証人が主たる債務者の事業再生、事業清算に着手した時期等が事業の再生計画等に与える影響
ホ)破産手続における自由財産(破産法第34条第3項及び第4項その他の法令により破産財団に属しないとされる財産をいう。以下同じ。)
の考え方や、民事執行法に定める標準的な世帯の必要生計費の考え方との整合性

2 自由財産及び拡張自由財産

自由財産(経営者保証に関するガイドラインQA7-20、23拡張自由財産含む)は、残存資産に含まれると明記されており、比較的柔軟に認められます(上記ホ))参照)。破産同様、自由財産は最低限残しうるとされているわけです。

3 インセンティブ資産(一定期間の生計費、華美ではない自宅、その他)

(1)回収見込額の増加額とは

自由財産を超えて財産を残し得るか、つまりインセンティブ資産を残し得るかですが、「回収見込額の増加額の範囲内 で認められる余地があります(ただし、主たる債務の整理手続の終結後に保証債務の整理を開始したときは、残存資産の範囲は自由財産の範囲内に限られ、インセンティブ資産は認められません(経営者保証に関するガイドライン7項(3)③、同QA7-20))。 回収見込額の増加額の範囲内かどうかは、主たる債務者が清算型手続の場合、合理的に見積もりが可能な場合には、①から②を控除して算出する(保証GLQA7-16)。

  1. 現時点において清算した場合における主たる債務及び保証債務の回収見込額の合計金額
  2. 過去の営業成績等を参考としつつ、清算手続が遅延した場合の将来時点(将来見通しが合理的に推計できる期間として最大3年程度を想定)における主たる債務及び保証債務の回収見込額の合計金額

※ 準則型私的整理手続を行うことにより、主たる債務者又は保証人の資産の売却額が、破産手続を行った場合の資産の売却額に比べ、増加すると合理的に考えられる場合は、当該増加分の価額も加えて算出することができる。

【保証GLにおける回収見込額の増加額イメージ】

保証GLにおける回収見込額の増加額イメージ

(2)インセンティブ資産の内訳

インセンティブ資産の内訳としては、❶一定期間の生計費、❷華美ではない自宅、❸その他があります。 第1に、経営者の安定した事業継続等のため、❶一定期間の生計費に相当する額を保証人の手元に残すことのできる残存資産に含めることを検討することになります(経営者保証に関するガイドライン7-14)。保証人が早期の廃業を主導し、弁済計画策定に与えた影響、経営資質、信頼性、窮境に陥った原因における帰責性等(前述の経営者保証に関するガイドライン7項(3)③イ)ロ)ハ)ニ)ホ))を勘案し、個別案件毎に増減を検討することになります。

【一定期間の生計費:雇用保険の給付期間の考え方】

保証人の年齢 給付期間
30歳未満 90日~180日
30歳以上35歳未満 90日~240日
35歳以上45歳未満 90日~270日
45歳以上60歳未満 90日~330日
60歳以上65歳未満 90日~240日

1か月あたりの生計費を33万円とするので、例えば50歳の場合、99万円~363万円が自由財産及び拡張自由財産とは別に残し得ることになります(ただし経済的合理性の範囲内)。 第2に❷「華美でない自宅」も残し得ます。これは明確な基準はないとされており、地域の実情、保証人の誠実性、窮境原因についての有責性の程度、適時適宜に情報開示する姿勢等をもとに関係者の納得感をもとに常識に基づいて判断されることになります。虎の皮の絨毯が敷いてあるような自宅はダメということです。ちなみに、経営者の自宅が無担保というケースは必ずしも多くありません。多くは住宅ローンがついていたり、主たる債務者(会社)の債務に担保提供されているものです。住宅ローン債権者は対象外債権としてこれまで通り支払を継続することが多いです。担保権ですし、保証債務でない以上、全く問題ありません。 第3に❸「その他の資産」を残すことも経済的合理性の範囲内であれば理論上は可能です。しかし、一定の生計費という「目安」を超えて残す必要性があることについて、「個別の事情」を丁寧に説明することが求められます。

【残存資産のイメージ】

4 非残存資産(自由財産、インセンティブ資産以外)

これに対し、非残存資産は、処分・換価して、非保全債権者に按分弁済することが基本になります(経営者保証に関するガイドライン7項(3)④ロ)。 もっとも、「非残存資産」について、処分・換価する代わりに、「公正な価額」に相当する額を弁済することも可能です(処分価値で評価します。経営者保証に関するガイドラインQA7-25)。当該弁済を原則5年以内(5年超過も協議によりOK)での分割弁済とする弁済計画もあり得ます(保証GL7項(3)④ロ)。かかる対応が認められると、①自由財産(拡張含む)、②インセンティブ資産に加え、③その他の財産(基準時点後の収入による分割弁済による残る財産)を残すことが可能になります。経営者保証に関するガイドラインによる柔軟解決の一場面と言えるでしょう。