1 民事再生と事業譲渡
民事再生の手続開始後に行う事業譲渡には、再生計画に基づいて行うものと再生計画に基づかないものがあります。事業譲渡は、債権者にとって利害に関わる問題であることからすると、再生計画に基づいて行うことが原則といえるでしょう。
しかし、再生の局面では、裁判所の再生計画の認可決定を待っていては、得意先の取引打ち切りや従業員の離散によって事業価値が毀損してしまう場合が多々あります。また、民事再生後の資金繰りに不安がある事案も多いです。そのため、早期の事業譲渡によってスポンサー企業の下で事業の再生を図るべく、再生計画に基づかないで事業譲渡することが多くなってきております。この再生計画に基づかない事業譲渡のことを、「計画外事業譲渡」といいます(民事再生法42条)。
2 計画外事業譲渡について
計画外事業譲渡は、債権者による再生計画案の決議や裁判所の認可決定に代わり、裁判所の許可によって事業譲渡を行うことができるとするものです。
計画外事業譲渡のメリットとしては、再生手続中の会社の事業のうち必要な事業のみを、その事業価値が劣化する前に、迅速にスポンサーに承継できることにあります。特に、いわゆるプレパッケージ型の民事再生(民事再生申立前にスポンサー選定が完了している方式)の場合には、開始後、数週間程度のうちに事業譲渡を実行することも可能とされているようです。民事再生申立後にスポンサーを探索する場合でも、2か月から3か月程度で事業譲渡が実行可能であり、この「迅速性」が計画外事業譲渡の最大のメリットといえるでしょう。
再生債務者が債務超過である場合には、会社法上必要とされる株主総会の特別決議に代わる許可(代替許可)を得て事業譲渡が実行できます(民事再生法43条)ので、この点でも迅速な処理が可能となります。
また、スポンサー会社(買収側)にとっては、承継する事業と承継しない事業を分離できるため、簿外債務や多額の債務を引き受けるリスクが低く、また裁判所の許可を得て実行するため法的な手続安定性が高いこともメリットといえるでしょう。
このようにメリットのある手続であるため、計画外事業譲渡が利用されるケースが増えてきています。
3 計画外事業譲渡の実行までの手続
計画外事業譲渡の手続の流れは以下のとおりです。
監督委員の同意を取得するにあたっては、スポンサー選定プロセスの公正性や事業譲渡対価の合理性を積極的に説明する必要があります。事業譲渡対価の合理性を説明するにあたっては事業譲渡によって清算価値を上回る弁済ができる見通しがあることを説明する必要があります(清算価値保証原則)。そのため、財産評定はできるだけ前倒しをして清算価値算定の準備を進めることになります。
また、東京地方裁判所の場合、裁判所の許可申請からおおむね2週間後に債権者の意見聴取期日が指定されています。債権者から特に異議が出なければ、意見聴取期日後それほど時間を空けずに(場合により即日で)許可決定が発令されております。
- 事業譲渡契約締結に関する同意申請及び監督委員の同意取得
- 事業譲渡契約締結
- 計画外事業譲渡について裁判所への許可申請
- 債権者からの意見聴取の手続
- 裁判所による許可
- 事業譲渡の実行(クロージング)
以上