第二会社方式の概要、メリット、留意点

私的整理において第二会社方式を活用する事例が多いので、その概要、メリット、留意点について説制します。当事務所で関与する私的整理に基づく債権放棄案件の大多数は、第二会社方式を採用しています。

1 債権放棄(債務免除)の手法について

(1)債権放棄(債務免除)の手法

債権放棄(債務免除)の手法としては、現法人格を活かす「債務免除方式(直接免除方式)」と会社分割や事業譲渡等により会社の事業を別会社に移す、いわゆる「第二会社方式」があります。現在は、「会社分割」を利用した「第二会社方式」が主流になってきています。

(2)「第二会社方式」とは

では、「第二会社方式」とは、そもそもどのような手法なのでしょうか。
「第二会社方式」とは、会社の事業のうち事業継続の見込みのある事業(good事業)を、会社分割や事業譲渡といった手法を利用して、現在の法人格(旧会社)から新しい法人格(新会社または受け皿会社)に切り離すとともに、事業分離後の既存の会社(旧会社)は、特別清算手続により、その法人格自体を消滅させる手法です。
事例1

2 直接免除方式よりも第二会社方式が多用される理由

民事再生の場合には、スポンサー型スキーム(計画外事業譲渡が多い)を除き、直接免除方式を採用し、現法人格を活かすことが多いです。それにもかかわらず、私的整理の場面においては、現法人格を活かす直接免除方式よりも、第二会社方式の方が多用されている理由は何でしょうか。


債務者側の事情と債権者側の事情があります。
まず、債務者側の事情としては、債務免除を受ける場合、債務免除益課税が生じるという問題が挙げられます。法的整理の場合には、資産の評価損益の計上と期限切れ欠損金を優先適用するなどして免除益を相殺できるだけの損金を作ったり、青色欠損金を残しておくことも可能です。これに対し、私的整理の場合には、原則として、資産の評価損益の計上や期限切れ欠損金の優先適用が認められておらず(企業再生税制が活用できるケースは多くはありません。)、例外的に企業再生税制という制度を使う場合に、税務上の特典を利用することが可能となりますが、事業再生税制は利用のハードルが高いため(再生支援協議会スキームの大部分は使えませんし、特定調停は一切使えません。)、同税制が使えないとすると、債務免除益課税が生じる可能性がありますし、仮に免除益課税を相殺しきれたとしても、青色欠損金が温存できず、今後の事業継続にあたり、税金の負担が重いということになってしまうわけです。
これに対して、第二会社方式を活用すれば、旧会社は事業譲渡等に伴う資産の譲渡損を出すことで債務免除益を相殺するための損金を作ることが出来ます。また、旧会社を特別清算する場合には、期限切れ欠損金を利用することができますので、債務免除益課税は事実上問題となりません。一方で、新会社が受け入れた資産と負債の差額は「のれん」(「資産調整勘定)となります。資産調整勘定は税務上の損金となりますので、いわば新会社が青色欠損金を承継することと類似した効果を期待することが出来ます。

債権者側の事情としては、直接免除ではなく、裁判所の関与する特別清算手続の中で債務免除するのであれば、モラルハザードやレピュテーションリスクへの対応が出来るほか、寄付金課税になるリスクが小さくなるという事情もあろうかと思います。また、信用保証協会の保証付き制度融資については、自治体の損失補償がついているケースがあり、かつ、直接の債務免除の場合には議会承認が必要となることがあります。その点がクリアされている地域においても、活動している事業者に対する債権を直接放棄することは、第二会社方式で廃業後の旧会社を特別清算する場合に比べ、ハードルが高いとされております。これも直接の債務免除が使われず、第二会社方式が多用される理由の一つとされています。
そのほか、第二会社方式になれば、旧会社は清算されますので、株主責任の明確化が図れる点もメリットの一つと言えるでしょう。

3 第二会社方式を検討する際の留意点

直接の債務免除とは異なる第二会社方式固有の留意点は何でしょうか。主な留意点は、4点になります。

1つ目は、許認可の承継が出来るのか、出来るとしてどの程度のコストがかかるのか、どの程度の時間を要するかを検討・確認することが必要です。許認可の承継が出来なければ、事業継続が出来なくなりますので、再生スキーム自体の見直しも必要になりかねません。許認可承継手続をきちんと確認することが必要です。

2つ目は、新会社が引き継ぐ資産と負債の差額が「のれん」(「資産調整勘定」)となりますが、その実在性をどのように担保するかという問題です。単に負債を多く承継し、資産と負債の金額に差があれば、「のれん」が認められる訳ではありません。のれんの金額が将来キャッシュ・フローから適切に算定されたものであり、実在性があると認められなければ、自己創出のれんとして、損金算入が認められないリスクがあることを認識することが必要です。公認会計士による事業価値算定を行うことが必要となる所以です。

3つ目は、第二会社方式としても、事業譲渡と会社分割のどちらを採用するかという問題です。事業譲渡の場合には、譲渡時に消費税が生じますが、会社分割の場合には生じません。他方で、新会社の株主構成如何では、事業譲渡の場合、免税事業者にできる可能性もあります。税務を含めた手続コストで多額の違いが生じることが多いので、税理士等とtaxプランニングを検討することが大事になります。そのほか、債権者保護手続や労働者保護手続きにも違いがあります。このように会社分割か事業譲渡かは一概に決めることは出来ず、私的整理の事業再生に深い知識と経験のある税理士、公認会計士、弁護士、司法書士にスキーム策定に関与してもらうことが大事です。

4つ目は、新旧分離の想定貸借対照表を適切に策定し、旧会社の清算費用(弁護士費用、税理士費用等)、会社分割等の手続コスト(司法書士費用、行政書士費用、登録免許税等)を適切に見込んでおくことです。旧会社を清算する費用がないとか、想定どおりの配当が出来ないなどのリスクを排除しておくことが必要です。