スポンサーを活用しての事業再生(事業承継)の概要、メリット、留意点

私的整理においてスポンサーの支援を得ることも少なくありません。スポンサー型事業再生の概要、メリット、留意点を説明します。

1 スポンサー型事業再生とは

自力での収益改善が困難であるとか、後継者不在とか、金融機関や取引先等との信頼関係が失われているなど様々な事情によって、現経営陣のもとでの自主再建が難しい場合には、スポンサーに事業を譲渡して事業再生を目指す方法が考えられます。


事業再生を考える会社の場合には、株式譲渡というスキームを使うことは必ずしも多くありません。簿外債務リスクが切断されない問題があるからです(許認可その他の理由により、現法人を活用するために、株式譲渡スキームを取ることもあります。)。そこで、会社そのものではなく、事業をスポンサーに切り出す方法、すなわち事業譲渡・会社分割という手法を用いることが多いです。
スポンサー型事業再生の中でも、第二会社方式を活用する場合、スポンサーは、再生会社(旧会社)から事業を譲り受けることと引換えに、譲渡代価を旧会社に支払うこととなります。旧会社は、スポンサーから受け取った事業譲渡対価を債権者に配当することになります。私的整理の場合、仕入先、外注先等への商取引債務はスポンサーに承継されるため、ここでの配当の対象となる債権者は金融機関に限られるのが一般的です。金融機関には、旧会社からの配当と引換えに、残った債権については、特別清算、特定調停、破産手続を通じて実質的に債権を放棄してもらうこととなります。
スポンサースキームは、再生支援協議会、特定調停スキームなどの準則型私的整理手続はもちろんのこと純粋私的整理の場面でも使われることがあります。

2 スポンサー型事業再生のメリットとは

スポンサー型事業再生のメリットとしては、

  1. スポンサーの知見を活用できる点で、事業再生の確実性が高まる
  2. 上記と関連しますが、スポンサーの経営資源、得意先への販路拡大、信用補完、経費削減等による収益力改善効果(いわゆるシナジー効果)が得られるため、金融機関は自主再建の場合に比較して、回収額が高まる可能性がある
  3. 後継者問題(事業承継問題)の解決を図ることが可能
  4. スポンサーへの事業移転後、旧会社は清算することになるため、経営責任、株主責任の明確化を果たしやすいといった点があげられます。

3 スポンサー型事業再生の留意点

スポンサー型で進める場合には、スポンサーから支払われる代価が債権者に対する返済原資となり、債権放棄を伴うことも多いことから、債権者としては、誰が、どのようにしてスポンサーとして選定され、いくらの代価を支払ってくれるのかという点に最大の関心をよせることになります。その意味で、スポンサー選定手続の公正性を担保することが肝になります。
この点、スポンサー選定のためには入札まで必ず必要だとの意見もなくはありませんが、中小企業の私的整理でそこまで求めるのは現実的ではありません。事業再生研究機構の「事業再生におけるスポンサー選定研究会」によると、スポンサー選定を2つの基準に分け、第1段階では合理性の基準が相当する事案と厳格な基準が相当する事案とを振り分け、第2段階においてはそれぞれの基準を具体的に適用するという考え方(総合考慮説、二重の基準説と言われる)が発表されております。中小企業の場合、スポンサー候補が引手あまたということはあまり多くないですし、何よりも、広くスポンサーを募る場合には、信用不安が広がることで、事業価値が毀損してしまうリスクが高まります。そこで、二重の基準によると、合理性の基準が相当する案件が多いと言えるでしょう。
なお、金融機関に有利子負債の債権放棄を要請する場合には、保証債務問題が顕在化します。経営者の方としては、この点が心配になろうかと思いますが、現在は自己破産せずとも、経営者保証に関するガイドラインを活用して保証債務整理の交渉を行うことも可能です。