私的整理局面における不動産の任意売却と留意点

私的整理(私的再建)を進める際に、事業活動に不可欠とは言えない会社の不動産や保証人所有の不動産は売却対象となることが多いです。そこで、会社所有ないし保証人である社長所有の不動産の任意売却をすることがあります。本稿では、任意売却のメリット、留意点、流れについて説明します。

1 任意売却のメリット

一般的には、競売に比べて任意売却の方が高額で換価することができるといわれております。会社にとっては、物件を高く売却できれば、金融機関の債務圧縮が図れますし、その分、金利が減額され資金繰りも改善できる点で大きなメリットがあります。
また、任意売却は、競売と異なり、物件の売主が買主を選ぶことができます。
たとえば、社長所有の自宅を親族等の協力先に買い取ってもらうことにより、自宅の居住権を守れる場合もあります。

さらに、任意売却を進めていること自体は公となりませんので、第三者に知られることなく行えれば、無用な信用不安が広がるリスクも避けることが可能です。

このように任意売却のメリットは大きいわけです。

2 金融機関にとって任意売却に応じる根拠

金融機関にとっても、以下のメリットがあり、現在の実務では競売手続よりも任意売却で不動産の換価が終わっている案件が圧倒的に多いと考えられます。

(1)早期の回収が図れる。
⇔競売の場合には4~6か月は時間がかかります。
(2)比較的高い金額で債権回収ができる。
⇔競売の場合の裁判所の評価は時価の7割程度と言われています。
(3)買主に融資が出来れば、新たなビジネスになる。
⇔競売の場合には、融資がおりることは少ないと思います。
(4)競売よりも人道的にイメージが良いなどのメリットもあります。

3 任意売却のポイント

破産などの法的整理の場合も同様ですが、私的整理の局面では、特に以下の点に留意すべきです。

(1)売買契約書の留意点

①瑕疵担保責任の排除

私的整理を進めるうえで何よりも大事なのは、「現状有姿」の売買としたうえで、売主の瑕疵担保責任を免責する旨の特約を設けることです。売主である会社や個人が将来、破産や民事再生などをした場合には、瑕疵担保責任に基づく債権は、破産債権や再生債権になってしまい、トラブルになることが必至だからです。
また、私的整理をする際に会社分割などを利用した「第二会社方式」をした場合にも、旧会社が特別清算等で消滅しているなどの理由により、新会社が責任追及を問われるなど(もちろん免責登記をつけていたとしても)トラブルになってしまうからです。

②手付・違約金条項の排除

売主は手付金を受け取るべきではありません。一括決済にするべきです。一般の不動産売買のように、手付放棄や手付倍返しによって、契約解除をすると、追々トラブルになってしまうことが多いからです。同様の趣旨で、契約解除でも文句を言わないようにするために、違約金条項などは設定すべきではありません。

③契約解除条項

後順位担保権者がいることもありますし、他の債権者が異議を述べるなどのリスクもありますので、できれば売主側からはいつでも契約を解除できる条項にした方が良いでしょう。

(2)無担保物件を売却する場合の留意点

①売買代金額の妥当性のチェック

無担保物件を処分する場合には、売買代金額の妥当性を担保権者である金融機関がチェックすることができません。事前に当該金額以上であれば売却する方針であると告知し、理解を得ておくことが必要でしょう。一般的に、私的整理の場合には、不動産鑑定・不動産調査報告の「早期処分価格」以上であれば、売却するという方針に立つことが多いです。もちろん「正常価格」で売却できればそれに越したことはないのですが、いつまでも売却できなければ、私的整理(私的再建)が完了しないからです。この点、安易に売却をして、債権者とトラブルになると、後々詐害行為取消権(民法424条)を行使されたり、否認権行使のリスクがありますので、十分に注意すべきです。

②換価した代金の管理

換価した代金を運転資金に使うことも原則として適切ではないでしょう。
売買代金から売却に必要な諸費用を控除した金員は、別口座で管理すべきです。いつの間にか売買代金がなくなっていたというようなことがあってはいけません。代理人弁護士が預かるなどの処理が望ましいです。

(3)連帯保証人・物上保証人名義の不動産を売却する場合の税務上の留意点

①譲渡所得税の検討

前述のとおり、売買代金額が不当に安いと、詐害行為取消などの法的リスクがありますが、
逆に売買代金額が取得原価よりも高い場合には、譲渡益が生じ、「譲渡所得税」が発生することっとなります(所得税法33条1項)。

②保証債務の履行(所得税法64条)

しかし、保証債務を履行するために資産の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権(主債務者である法人の債務を立て替えて支払ったことにより、法人に対して持つ債権のこと)の全部または一部を行使することができないこととなったときは、その行使することができないこととなった金額に対応する部分の金額は、所得金額の計算上、所得がなかったものとみなして、譲渡所得税が発生しない処理が認められています(所得税法64条2項)。
なお、本特例の適用を受けるためには、所得税の確定申告書の当該特例を適用する旨を記載し、かつ、保証債務の履行のための資産の譲渡に関する計算明細書を添付する必要があるとされています(所得税法64条3項)。

③何らかの事情により保証債務の履行の特例が使えないときは、強制換価手続による資産の譲渡に該当する場合に課税しないこととしている所得税法9条1項10号の規定を活用できないか確認が必要です。

 

4 任意売却の流れ

不動産仲介業者を介さない場合の任意売却の一般的な流れは以下のとおりです。
なお、売主が売却を希望し、買受人が決まっていることを前提とします。

<利害調整の段階>

  1. 買主から買付証明を出してもらう
  2. 後順位担保権者の金融機関に対し、ハンコ代の支払と引き換えに担保解除するよう求める。
  3. 配当表を作成し、②のハンコ代、不動産売買契約書印紙代、建物消費税の売買代金等を売買代金から控除することについて、優先する担保権者の金融機関の理解を得る。

<事前の準備>

  1. 売買代金支払(予定)日より前に、担保権者に抹消関係書類を準備してもらう。
  2. 抹消関係書類が担保権者の手元に揃った段階で、FAXやコピー等(最低でも電話)で、書類内容を確認する

<売買代金支払日当日>

  1. 売主、買主、関係当事者、司法書士等が金融機関等で一堂に会し、登記申請の必要書類を司法書士が確認し、預かる。
  2. 買主が売主に売買代金を支払う(現金の授受、融資の実行等)。
  3. 売主の担保権者が同席していれば、返済金の着金後に、その場で抹消関係書類を受領する。
    担保権者が同席していない場合には、返済金の着金後に、担保権者の窓口まで担保抹消書類を取りに行く。
  4. 司法書士が全ての必要書類をお預かりし、原則として当日中に法務局へ登記を申請する。