私的整理における預金の取扱い

私的整理で事業再生を進めるにあたって、預金が使えることが大事になります。預金が使えなくなってしまうと、即事業停止になりかねません。預金の取り扱いについて、簡単に整理してみました。

1 預金口座の利用と預金拘束のリスクについて

通常の会社であれば、借入先金融機関に対して、普通預金、当座預金、定期預金等の取引口座があるはずです。
再生支援協議会などの準則型私的整理を活用しているケースについては、債権放棄を求める案件においても、普通預金や当座預金等の流動性預金については、預金口座をそのまま活用できるケースがほとんどです。

これに対し、純粋私的整理をするようなケース(特定調停も裁判所に申立てする前の段階は、何らかの後ろ盾があるわけではありませんので、純粋私的整理とあまり変わらないと言えます。)においては、金融機関として、債権回収の一手段として、預金拘束(預金ロック)をするケースもなくはありません。預金ロックされますと、債務者会社は当該口座の預金を引き出せなくなりますので、当該預金を当てにしていた支払いが行えなくなってしまうという問題が生じます。

預金ロックの根拠としては、債務者会社からの支払猶予の申し入れをもって、期限の利益の喪失事由たる支払停止があったと評価し、将来の相殺のための準備に入るという点があげられます。期限の利益とは、一言でいえば、分割弁済を認めてもらえることをいいます。期限の利益がなくなってしまうと、分割弁済が認められず、一括で残債務の支払をしなければならない状態になってしまう訳です。預金ロックによって手持ち資金が凍結された場合には、資金ショートによる事業破たんの危険が一気に顕在化してしまうことになります。

2 預金ロックを回避するための方策

上記の預金ロックのリスク、すなわち資金ショートリスクを回避するために、支払猶予等の申入れを行う直前の時点において預金を避難することを検討することもあります。

つまり、借入先金融機関の口座からお金を引き出して現金化したり、借入先金融機関以外の金融機関の取引口座に振込送金したりして、預金ロックの対象となるお金を可能な限り口座から払い出すということが考えられます。売掛先等の取引先に対して、あらかじめ、売掛金の送金口座を借入先金融機関以外の金融機関の取引口座に変更してもらい、そもそも借入先金融機関の口座に預金が生じないような対処を取ることも検討することがあります。特に多額の粉飾をしているケース、再生支援協議会などの準則型私的整理の活用が到底難しいと考えられるケース、民事再生や破産と言った法的整理に移行する可能性があるケースの場合には、預金避難をしておくことが合理的という場面は少なくないでしょう。

預金ロックをされる理由の一つとして、会社側の対応が信用されていないケースも少なくありません。預金避難をすることで、かえって金融機関の信頼を損ねることにもなりかねませんので、金融機関に対しては、積極的な情報開示を行い、信頼回復に努めることも大事になります。

3 再生計画における預金の取扱い

再生計画において、流動性の預金(普通預金、当座預金)は担保扱いや相殺扱いにしないことが多いです。
この点は、法的整理である民事再生との大きな違いです。定期預金については、担保扱いにするケースとそうでないケースなどケースバイケースです。