弁護士や金融機関から私的整理による事業再生にチャレンジするよう助言を受けました。具体的にどのような流れで進行していくものでしょうか。
1 再生手法の検討順位について
すでに述べてきましたように、事業再生型の私的整理は、法的整理である民事再生に比べて、事業者にとっても、債権者にとってもメリットが大きい手続といえます。 また、同じ再生手続とはいえ、民事再生はどうしても「倒産」という負のイメージが強いため、取引先からの信頼回復に時間がかかり、再生を遂げるためのハードルが高くなることは否定できないところです。 そのため、まずは私的整理による事業再生を目指すことを第一に検討すべきでしょう。
2 私的整理の進め方
以下では、弁護士が事業者側代理人として関与する私的整理の場合のおおまかな流れを示します。話を単純化するため、純粋私的整理の抜本処理(債権放棄を伴う)案件の説明とします。具体的事情によっては、大きく変更することもありますが、一般的な流れとしてご理解ください。 なお、再生支援協議会活用の場合には、第1回バンクミーティングの招集等は再生支援協議会が行うこととなります。また、特定調停を利用する場合には、最終同意について裁判所の調停条項という形で整理することになります。
通常、財務や事業の調査に時間を要しますので、計画合意を得るためには最低でも4か月から半年程度は要すると考えた方が良いでしょう。(その後、第二会社方式等を採用する場合にはさらに一定の時間を要することになります。)。加えて、粉飾をしていた会社、過剰債務があり多額の債権カットが必要な会社、収益力が乏しく返済原資に余力がない会社の場合には、再生計画の策定に時間ですとか、金融調整に時間がかかることもあります。
途中で資金繰りが破たんしてしまったら、事業再生は出来ませんので、資金繰りが破たんする前に弁護士等に相談に行くことが肝要です。
【スケジュール概要】
【ご相談・打ち合わせ】
当事務所弁護士がご相談を受ける際には、概ね以下の事項の聞き取りをさせていただいています。これによりどのような再生手法が適切か、基本診断を行うことになります。
- ビジネスモデル、事業性、案件として取り上げることの大義名分の確認 事業性の把握と窮境原因の把握も重要になります。過去実績や今後の取り組みを確認します。誰に、何を(商品、サービス、提供価値)、いくらで(価格、販売方法、体制)、どの程度(販売数量)販売しているのか、商流図を作成しながら、事業内容を聞き取ります。これにより、競争優位性(強み)、外部環境(競合の状況、業界トレンド、今後の機会)、内部環境(組織、人事・労務・組織)、会社が倒産した場合に生じるデメリットの確認(大義名分)、窮境原因の確認及びその除去可能性を見ていくことになります。
- BS、PL等決算状況を踏まえ、収益力の確認 可能な範囲で過去の収益力(概算)、過剰債務額(概算)、債務償還年数(概算)のあたりをつかんでおきます。収益改善の打ち手が不十分かあるいは方向性が誤っているとすると、労力をかけたにもかかわらず事業の改善につながらないことになるため、事業者の収益の根幹を把握することは、大変重要な作業ということになります。
- 銀行との取引状況や保全状況 銀行との取引状況(どこがメインかの確認)、これまでの融資を受けた経緯、支援状況、保全状況(担保設定状況)を確認します。
- 経営者の再生への強い意欲・熱意 経営者が再生への強い意欲、熱意がないと、再生させることは不可能です。不誠実な場合にも私的整理を進めることはできません。経営者保証に関するガイドラインの活用も難しくなります。仮に問題行為がある場合には当該行為の是正が可能か確認します。
- 個人財産状況の確認(経営者保証に関するガイドライン活用の可能性の説明)
- 株主構成の把握及び株主責任が果たされることの理解
- 私的整理の障害事項がないかの確認 例えば、取引先に信用不安が生じていないか、生じているとして沈静化できるか。悪質な粉飾、多重リース等の不適切な処理がないか、あったとして、関与した経営者はすでに退任しているかもしくは経営責任を取らせることが可能か。株式関係に問題が生じていないか、許認可の内容、簿外債務の確認(退職金含む)、閉鎖事業等の撤退コストの内容及び概算額、社員の協力・モチベーション、公租公課の滞納状況、関連会社の扱いなど
【事前準備:資金繰り表の作成・預金避難】
会社の預金(資金)は、事業継続に不可欠な血液のようなものです。 窮境状態にある会社は、資金繰りがひっ迫しており、資金ショートの危険が差し迫っていますので、資金繰りの管理は極めて重要です。会社の資金状況を適切に把握するためには、資金繰り表(実績だけでなく今後の見通しを含む。)の作成が不可欠です。
悩ましいのは預金の取扱です。金融機関との十分な信頼関係がある場合、再生支援協議会などの準則型私的整理の場合は別ですが、そうでない場合には、弁護士が介入したことをもって期限の利益喪失事由の一つである支払停止と受け取られ、期限の利益を喪失することもあります。そうなると、会社及び保証人の預金口座は預金ロックの対象となり、口座資金が凍結され、資金繰りに使えなくなってしまうリスクがあります。
したがいまして、会社及び保証人の預金については、弁護士介入前に引き出して、金融債務のない金融機関で管理するようお願いすることもあります。ただし、この点については、金融機関の信頼関係を喪失する事態も予想されますので、ケースバイケースの側面もあり、担当弁護士とよく協議すべきでしょう。
【具体的手続の説明】
1.個別訪問や第1回金融機関説明会
経営者は、まず、借入金の返済猶予等金融支援を要請せざるを得なくなったことについて、謝罪をしていただくことになります。その上で、私的整理を進めることにつき、協力を要請することになります。 多くのケースでは、元金の支払猶予を要請(残高維持の要請)することになります。資金状況によっては、金利の支払を含めて猶予の要請をせざるを得ない場合もあります。 預金の取り扱い、その他諸問題があれば、この場で各行と歩調を合わせて置く必要があります。 私的整理を進めることについて、概ね賛同が得られましたら、デューデリジェンス(DD)の準備に入ります。
2.DDの実施
DDでは、公認会計士が対象事業者の財務状況の実態把握を目的として実施する財務DDと、中小企業診断士等の経営コンサルタントらが、対象事業者の事業実態、事業改善の方向性の把握を目的として実施する事業DDを行うことが一般的です。 財務DDでは、実態BSと清算BSを作成することになります。これらの情報は、必要となる金融支援の内容(債権カットの要否)及び程度(必要債権カット額)を検討するための重要情報となりますので、財務DDの実施は不可欠とされております。同時に、金融機関の保全価値を把握するために、対象事業者に関連する不動産を対象とする不動産鑑定も実施することが多いです。 事業DDでは、対象事業者が抱える外部的、内部的問題点を把握し、事業上の課題を浮き彫りにし、収益改善のヒント及び具体的な事業改善施策(アクションプラン)の策定を行っていくことになります。再生スキームや事業者の規模によっては、独立した事業DDを省略して、財務DDの中で必要な分析を実施することもあります。例えば、スポンサー型で事業改善等の施策を検討する必要がない場合には、事業DDの必要性は高くありません。
3.第2回金融機関説明会(DD報告)
第2回目の金融機関説明会では上記DDの結果報告と営業利益段階までの損益計画等を発表します。この段階で、金融支援スキームのあらましが見えてきますので、必要に応じて、方向感について金融機関の意向も確認することになります。
4.事業再生計画の策定
営業利益計画をベースに、貸借対照表、CF計算書と連動させたいわゆる財務三表の形で事業計画を作成していきます。
PL計画では、事業DD等の分析結果を踏まえたアクションプランの実施による収益改善効果を織り込んでいきます。事業再生案件の場合、売上が右肩上がりに回復する前提での計画を立案することは多くはありません。仮に、売上が増える計画となる場合、売上が増額となる根拠について、具体的かつ説得的な説明が必要となります。
貸借対照表計画では、財務DDでいったん集計された実態債務超過がどのような経過をたどって解消されるかの推移を示すことになります。一定の期間内(3年~5年以内)に債務超過の解消が見込めない場合には、DDSであるとか債権カットによって財務内容を抜本的に改善させる必要性があることが確認できます。 CF計画は、事業再生計画期間内の対象事業者の資金状況を確認するための資料となります。仮にPLで黒字だったとしても、運転資金増減、借入金の返済等によって、CFはマイナスとなることがままあります。そうした場合でも、資金繰りが回るかどうかの検証をすることになります。また、計画期間満了までの手元現預金が必要以上に積みあがりすぎないか(借入金の返済が過小となっている可能性があります。)を検証するという機能も有しています。
財務三表に基づいて、必要な金融支援の内容が固まってきますので、主力金融機関、特にメインバンクとのすり合わせが重要になります。
5.第3回金融機関説明会
対象事業者が作成した事業再生計画をすべての金融機関債権者に提示します。中小企業の経営者の場合には、連帯保証人になっていることが一般的ですので、経営者保証ガイドラインに基づく、弁済計画も同時に織り込んで提示することが一般的です。また、金融機関に対しては、具体的な支援事項を説明のうえ、協力を要請することになります。抜本的な金融支援が必要となる場合には、経営責任の明確化ですとか、今後のガバナンス体制が有効に機能することを説得的に説明することが求められます。
6.第4回金融機関説明会
すべての金融機関から事業再生計画(保証人の弁済計画も含む)に対する同意を取り付けるためには、全体説明会での説明だけでなく、個別に金融機関と面談をする等、丁寧かつ誠意をもって協議を進めていくことが必要です。 全行同意が取れた場合には、最終の金融機関説明会を開催して、その旨を報告することになります。
7.クロージング
第二会社方式の場合には、事業譲渡・会社分割のための手続を別途実行する必要があります。事業譲渡・会社分割の実行と同時に、予め設立しておいた新会社と金融機関との間で、新会社が承継した金融債務の支払い条件についての契約を締結します。事業譲渡・会社分割実行後の旧会社は後日特別清算手続で清算することになります。金融債務のうち新会社に承継されなかった部分(過剰債務部分)は、特別清算手続内において債権放棄を受けることになります。