遺言作成

中小企業では、自社株や不動産を社長が所有しているケースも多いと思います。社長は「子どもの一人に会社を引き継いでほしいが、まだまだ元気だし、特に対策しなくても大丈夫」と考えていたが、突然、不慮の事故で亡くなってしまった。このような場合、その会社はどうなってしまうでしょうか。本稿では遺言作成について検討してみます。

1 遺言作成のメリット

社長が遺言を作成している場合と作成していない場合では、以下のように大きな違いがあります。
まず、社長が遺言を作成していない場合には、原則として、各相続人は法定相続分にしたがって相続することになります。そのため、例えば長男を後継者としたい場合でも、長男の相続分を超える株式を長男が取得するためには他の相続人の同意が必要となります。相続人間で円満に調整ができればそれほど時間を要することなく手続きを進めることができると思いますが、これが争いになった場合には、大変な労力と時間を要します。裁判所の遺産分調停や審判を利用することになれば解決までに何年も必要になるケースもあります。
また、遺言がない場合、遺産分割が成立するまで、社長の株式は相続人間で「準共有」という共有状態になります。この場合は、相続人は各自が会社に対して株主権を個別に行使できるわけではありません。共有持分の過半数をもって権利を行使する者1人を定め、その氏名を会社に通知しなければなりません。相続人間の意見が合わない場合、権利行使者が定まらず、長期間株主としての権利行使ができなくなるおそれもあります。
一方で、社長が生前に「株式はすべて長男に相続させる
といった遺言を作成しておけば、遺産分割は不要なので、スムーズに事業承継することはできます。ただし、遺言を作成する場合には「遺留分」に配慮することは必要です。

2 遺言の種類

遺言は、法律上、以下のどれかの方法ですることが必要です。

(1)自筆証書遺言

遺言者が、その全文と日付、氏名を自筆で書き、ハンコを押します。ワープロ書きは認められません。作成の費用はかかりませんが、遺言者が亡くなった後に遺言を発見した相続人は、裁判所で遺言の内容を確認すること(検認)が必要となります。また、例えば日付やハンコがないため無効になってしまうこともありますので、注意が必要です。

(2)秘密証書遺言 

遺言者が、公証人と、2名以上の証人の前に、封印した遺言書を提出して、遺言の存在は明らかにしながら、内容を秘密にして遺言書を保管します。自筆の必要はありませんが、検認の手続きが必要となる点は①と同じです。

(3)公正証書遺言 

公証人が、2名以上の証人の立ち会いの下に、遺言者から遺言の趣を聞き取って作成します。遺言者が病気で字が書けなくても作成できます。遺言者が公証役場に行くことが難しい場合には、日当がかかりますが、公証人に自宅や病院まで出張してもらうこともできます。作成された遺言書の原本は、公証役場に保管されるため、誰かが隠したり、紛失するおそれもありません。もっとも、対象となる財産の額に応じて、公証役場に費用を支払う必要があります。

(4)特別方式の遺言 

以上は、遺言者が普通の状態にあるときの方式ですが、遺言者が病気で危篤の場合などは、特別なルールの下に遺言をすることもできます。
後日の紛争を防止するためには、公証人が本人の真意や判断能力を確認しながら作成する公正証書遺言が、信頼性も高まることからおすすめです。

3 遺言のコツ

遺言を作成する際には、後で争いが生じないように、以下のような点に気をつけます。

(1)各相続人の立場を考えよう

自分の財産と相続人の顔を思い浮かべながら、どの財産をどのように分ければ残された人々が喜び、納得するかを考えます。

(2)遺留分に配慮しよう

兄弟姉妹以外の法定相続人には、遺言によっても侵害できない一定の割合(遺留分といいます)があるため、分配が偏りすぎないように配慮する必要があります。

(3)遺言執行者を指定しよう

遺言書の内容どおりに手続きをスムーズに進めるためには、遺言を執行する者を指定しておいた方がよいでしょう。遺言執行者とは簡単にいうと「遺言に書かれている内容をそのとおりに実行する人」のことです。遺言執行者を指定しておかないと遺言の内容を実現しようとしても相続人のうち誰かが協力しない場合に預金の解約や不動産の名義変更などの手続きが滞ってしまう場合があります。相続人の間で感情的なしこりを残さないようにするため、第三者を遺言執行者に指定することもできます。

(4)付言事項の活用

例えば、特定の相続人の取り分を多くしたり、相続人以外の人に財産を残す場合には「日頃から世話をしてもらった恩に報いるため」といったように理由を書いておくとよいでしょう。
遺言書の中には「財産を長男と次男で半分ずつ分ける」といった曖昧(あいまい)な記載をしたものがありますが、このような記載は避けるべきです。どちらがどの財産を取得するのか不明ですし、一部の財産だけを対象にした遺言では、他の財産をどうするのか不明です。これでは遺言書を作成した意味がなくなってしまいます。また、記載の不備により遺言が無効になってしまう場合もありますので、遺言書は事前に専門家に目を通してもらった方がよいでしょう。