法人破産申立概要と具体的な留意点

法人破産の概要、破産申立準備に向けての具体的な留意点について、整理してみました。

1 法人破産申立の概要(個人破産との比較)

法人・会社は、個人と異なり、非常に複雑な法律関係を抱えています。取引先や顧客との法律関係はもちろん、会社内部においても、従業員との労働・雇用関係という法律関係がありますし、財産も個人に比べて多種多様です。負債額や債権者の数も、個人の負債に比べれば、はるかに大きいという場合が大半でしょう。何千万円、何億円という単位になることも少なくありません。このように、法人・会社の場合には、債権者の数や負債額、法律関係などが複雑となりますから、社会に与える影響も個人に比べて大きいといえます。そのため、法人・会社の破産の場合には、通常、破産管財人が就任し、審査や手続が厳格かつ複雑となる場合が少なくありません。
また、個人の自己破産の場合には、仮に自己破産したとしても、その個人はその後も社会生活を送っていかなければなりません。単に財産関係を清算するというだけではなく、経済的更生をも考慮しなければならないということです。そのため、免責制度や自由財産制度(一定の財産を残すことが法律上認められています。)などが設けられています。これに対し、法人・会社の場合には、そのような考慮をする必要がありません。その違いも、個人の自己破産との違いといえるでしょう。

2 任意の清算の優先的検討

破産手続の場合には、どうしても一般債権者を巻き込む話になります。そのためにも、買掛債務があまり大きくないとか、公租公課の滞納額が大きくない会社の場合には、第一期的には任意の清算を検討することが大事になります。もっとも、自己判断をしてしまい、先に一般業者だけを支払う場合には、否認権の対象になってしまうなど様々なリスクがありますので、必ず専門家に相談するようにします。任意の清算の手段としては、「廃業支援型特定調停スキーム」を検討することになります。

3 破産申立に伴う混乱回避の方策並びに破産申立て準備

(1)混乱とは何か。

会社の業種・業態・従業員数・取引先数により、区々ではあるが、突然、資金繰り破たんが生じ、事業活動の停止を余儀なくされた場合、残念ながら次に掲げるような混乱が生じる恐れがあります。

第一に、突然の事業停止ないし不用意な行動により生じた風評により、取り付け騒ぎが生じるおそれがあります。前日まで会社は買掛で仕入れを行っていたにもかかわらず、ある日突然、事業停止となれば、取引先債権者は憤り、「前日仕入れた在庫は返せ」などと取り付け騒ぎ(混乱)が生じるおそれがあります。こうなってしまうと、在庫、機械、リース物件が持ち去られる恐れがあります。
第二に、突然の事業活動停止により、販売先(顧客)に多大な迷惑が生じるおそれがあります。例えば工場で製造される商品を仕入れている販売先は当該工場からの仕入が突然停止すると、大きな迷惑を掛ける可能性があるわけです。もちろん事業停止する以上、販売先が迷惑を受けるのは、やむを得ないことですが、当該会社しか作っていないようなモノを製造している会社が突然事業停止する場合、販売先の会社としては仕入が出来なくなり、当該会社が多大な損害を受けるだけでなく、社会経済上も不合理と言えます。(事案によりますが、詐害行為にならないように留意しつつも、事業譲渡を検討すべき場合とも言えます。)
第三に、従業員に多大な不利益を与えます。事業活動が停止するわけであるから、全従業員が全員解雇されること自体は致し方ありません(もっとも、事業活動の一部だけでも引き取ってくれる先があれば一定程度保護されるケースがあります。)。しかし30日分の解雇予告手当、事業停止時までの日割り賃金、退職金規定に基づく適正な退職金などは支払えるようにしてあげたいと思うのが人情ですし、あるべき姿と言えます。破産者の使用人の給料債権は、破産者が法人であるか自然人であるかを問わず、破産手続開始前3ヶ月に生じたものは財団債権となります。解雇予告手当は、労働の対価ではないので、「給料債権」には含まれないため、財団債権とはなりませんが(東京地裁の場合、財団債権とする扱いもあります。)優先的破産債権となります。いずれも法律上優先的に支払うべき性質の債権であるため、破産手続前に優先して支払うことは問題ないとされています(そもそも解雇手当を支払わなければ、解雇の効力が生じません。)。実務上も多くのケースで従業員給与(特に立替払いの対象にならない解雇予告手当)を優先して支払うことが大事になります。
第四に、破産申し立てなどの清算費用すら出せないことも考えられます。
会社が破産手続を申し立て出来ないということは、事実上の倒産(夜逃げなど)を余儀なくされますが、次のとおり、債務者のみならず、債権者・労働者に更なる迷惑をかけることになるので避けるべきです。一番のデメリットは、従業員の給与未払いへの対応が出来なくなる可能性があること、保証債務の整理が適切にできないことになります。

項目 事実上の倒産 破産
債権者 債権者の貸倒処理に手間がかかる。 破産の場合は貸倒処理できる。債権者も納得しやすい(法人税基本通達9-6-2照)。
債務者(代表者) 混乱が長期間継続するおそれがあり(取り付け騒ぎが収まらない)、債務者の生活の平穏が得られない。 管財人・裁判所が処理するため、法律に基づいて適正に処理されるため、債務者の生活の平穏が得やすい。
労働者 従業員の給与未払いへの対応が出来ないおそれがある(理論上は未払賃金立替払制度の活用は出来るが、現実には混乱に伴いなされないことがある。) 破産の場合、未払賃金立替払制度の活用がスムーズにでき、上限はあるものの未払賃金額の8割が保護される。
保証人の保証債務 保証債務もそのまま残ってしまう。 経営者保証に関するガイドラインの活用も可能となる。それが難しくても、個人破産を申立てすることで借金をなしにできる。

(2)混乱回避のための資金繰り管理

混乱が生じるまでズルズル事業継続してきたということは、会社を畳む(清算する)計画がなかったといえます。そうならないために日々の資金繰り管理が必要です。
資金繰り管理というのは、資金繰り表を作ることを大前提として、収入・支出による日々の資金繰り残高の推移を把握すること、収支のコントロールを行うということになります。収支コントロールとは、資金が不足する場合に、支出を停止(支払猶予)して、資金を作るということです。基本的には混乱を生じにくい債権者(たとえば銀行や公租公課庁)の支払停止を検討することになります。時限性ある方法で限定的にしか活用できないませんし、預金ロックや滞納処分など様々なリスクもありますので、専門家に相談した上で十分な注意・検討が必要です。

(3)破産申立に必要な資金(清算費用)や解雇予告手当を残しておくこと

破産申立と言っても資金が必要です。破産申立に必要な資金は、大きく分けて破産申立代理人の弁護士費用と裁判所に納める予納金(大部分は破産管財人報酬)に分けられます。また、前述のとおり、従業員の解雇予告手当や未払賃金も支払えることも望ましいです(解雇予告手当は、未払い賃金立替払制度の対象になりませんので、これだけでも優先的に支払うべきです。)。

ア 破産申立資金や解雇予告手当が確保できているケース

破産申立資金や解雇予告手当を確保できているケースの場合には、財産散逸を回避し、混乱を回避するためにも、弁護士を選任し、速やかに30日分の解雇予告手当を支払い、全従業員を即時解雇し、事業活動を停止し、破産申立を行うことが適切と言えます。廃業する以上、無駄な出費を防ぐべきであるから、会社が行っている様々な契約もすべて解除するべきである。たとえば賃貸借している物件があれば、速やかに明け渡しが出来るようなるべく早く貸主に解約予約をすることも検討すべきです(ただし、管財人が解約したほうが有利に対処できるケースがありますので、あくまでも検討にとどめ、実際には管財人に処理をゆだねるケースの方が多いです。)。 

イ 破産申立資金や解雇予告手当が確保できていないケース

もっとも、破産申立てを検討する会社で破産申立の清算費用や解雇予告手当を確保できていない会社も少なくありません(むしろこの方が多いと言えます。)。
そこで、様々工夫してこれらの資金を準備し、混乱回避に努めることになる。
しかし、これは高度に専門的な判断が必要とも言えるので、必ず倒産処理専門の弁護士に相談することとしていただきたいところです。実務上は、次の点に留意することが多いです。

(ア)破産申立時期(エックスデー)の確認
事業停止及びその後の破産申立は致し方ないと認識するに至ったとしても、手元資金が不足し、直ちに申し立てが出来ない場合、適切な申立時期をいつにするかは難しい問題といえます。
まずは、売掛金の入金時期を予測し、買掛金や金融債権者への支払いなど全ての支払いを契約条件通り支払う資金繰り表(月次・日繰り)を作成し、現状のまま資金繰りが推移すれば、いつ手許資金残が多くなるのかを確認することが必要といえます。売掛金が入金されるまで待ち、清算費用(できれば解雇予告手当も)が確保できるタイミングまで待つという方法を検討するということになります。売掛金が入金され申立費用等がたまるタイミングをエックスデーとすることとなります。売掛金が入った当日に従業員に即時解雇通告を行い、解雇予告手当を支払い、直ちに事業活動を停止することが一つの解決方法です。
また、破産申立日の選択にあたっては、連鎖倒産の防止に配慮することもあります。破産予定の会社が約束手形を利用している場合、その支払サイトによっては債務が数カ月分未払いとなっていることがあります。取引債権者自身の金策等の時間を確保できるような日程がいつか検討することもあるわけです。
(イ)在庫処分の検討
会社の手元資金は潤沢にないものの、在庫を売れば、清算費用、解雇予告手当をねん出できるケースもあります。このようなケースの場合には、在庫一掃セールを行うことや、業者に販売し、即時に代金回収できないか検討することになります。
(ウ)売掛金の入金口座の変更
破産申立を検討する段階で急に取引銀行から預金ロックされてしまっては、資金ショートとなってしまいます。そこで、早期の申立てが難しい場合には、手元資金は借入のない銀行口座に預金を避難することも検討します。今後の売掛金の入金口座も新しい口座に入金してもらうようにすれば、安心です。なお、会社の預金を代表者や親族の預金口座に送金するのは、資産隠しと疑われかねないし、強制執行妨害罪に問われるリスクがあり、厳に控えるべきです。
(エ)新たな借入をしないこと
破産申立を検討する段階に入ってから、清算費用や解雇予告手当等のねん出のため、新たな借入を行うことが許されないこと明らかです(返済できないことを承知したうえで新たな借入を行うことは詐欺罪に該当するおそれがあります)。
(オ)買掛での仕入れには留意すること
しばしば忘れがちであるが、注意が必要なのは事業停止の直前まで漫然と買掛で仕入れを行ってしまうことです。漫然と買掛で仕入れてしまう行為は、見方によっては、支払不能と分かっていて新たな借入をする行為と同視されるリスクがないわけではありません。現実に多くの会社は、倒産を回避できないか、ギリギリまで検討していることが多いので、直前の仕入すべてが違法とまでは言えませんが、上記非難がないわけではないことにも頭を傾けるべきでしょう。

(3)混乱回避のための情報管理

資金繰り管理と並んで大事になるのが情報管理である。事業停止や破産申立を検討する段階は、情報管理に厳重な注意が必要な段階と言えます。
税金や社会保険料等の公租公課庁への対応には特に注意が必要です。事業活動が厳しいと感じると突如滞納処分をされてしまい、売掛金を差し押さえられることがあります。

4 受任通知の有無及び留意点

当事務所の場合、法人破産のケースで受任通知を出すことはほぼないというのが実感です。個人破産のように同時廃止を狙うということもありませんし、サラ金の取り立てを早く止めるというニーズも少ないですし、債権調査は破産手続で確定していくわけですので、債権調査自体不要という点も理由にあると思います。予納金が十分あり、即時申立てが出来るケースについては、受任通知を送るよりもさっさと申し立てた方が合理的と考えています。会社がそれなりの規模であれば、債権者一覧表はある程度会社任せで作れますし、そうでない会社はそもそも事業規模が小さいので一つ一つ確認しながらやれば、早期に申立てできるというのが実感です。
したがって、予納金集めのために、どうしても申立てを遅らせなければならない事情がある場合以外、基本的には受任通知は出す必要はないというのが実感になります。ただ、金融機関対応は別になり、支払停止を明らかにして、相殺禁止を取るために、預金を避難させたうえで、受任通知を出しておくことはあります。
なお、一般債権者に受任通知を出す場合であっても、消費者破産のように、受任通知に債権調査票を同封する手法を取ると、その返答待つことで申立が遅れるという弊害がありますので、債権調査票の同封は原則不要です。また、事業停止していた後であれば別ですが、生きている会社で安易に受任通知を出して、それこそ引き上げられるなどの混乱が生じたり、滞納処分を誘発するリスクもあります。間違っても公租公課庁に受任通知を出すことはしないように留意が必要です。

5 必要書類

法人破産の申し立てを行うにあたり、用意する書類の代表例は以下のとおりです。書類を紛失・廃棄したり、そもそも作成していない場合もあるかもしれません。書類の用意が用意できない場合もまずはご相談にお越しください。

□会社関係書類

  • 全部事項証明書
  • 定款
  • 会社案内
  • 組織一覧表
  • 株主名簿
  • 従業員名簿
  • 子会社・関連会社の商業登記簿
  • 就業規則、賃金規程、労働協約

□会社議事録関係

  • 株主総会議事録
  • 取締役会議事録

□資産負債関係

  • 会社の不動産登記事項証明書
  • 賃貸借契約書
  • 固定資産評価証明書
  • 自動車検査証
  • 社債原簿
  • 債権者名簿
  • 売掛金一覧表

□税務申告関係

  • 直近2期分の決算書及び付属明細書