売掛金回収の基本

売掛債権回収のご相談を受けることがあります。事前に当方に有利な「契約書」を作成しておくことが肝要ですが(「危ない取引先との取引について」参照)、万一、「契約書」の作成ができておらず、事後的に債権回収を考える際には、以下の手順で考えておくと良いでしょう。

1 現地に行き、債務者(先方)と会うこと

債務の支払いを滞っている債務者(先方)と会うことが大事です。債務者がどうして支払ってこないのかを確認しましょう。買掛債務額があることは認めるが、資力がないのか、それとも債務の支払自体に争いがあるのかを確認しましょう。この確認作業の中で、会社の資産状況や個人の資産状況等の確認もできるでしょうし、先方の考え(希望)も分かるでしょうから、何よりもまず先方と会うことが大事です。
どうしても面会できない場合には、照会書を送ることが大事になります(破産管財人に就任した際に「照会書」を送ることは常道です。)。

2 交渉の際の態度について

以下、債務の存在自体を認めている場合を念頭に置いてご説明いたします。交渉の際は、先方の態度にイライラするかもしれません。それでも、決して言動を荒立てないことです。
いくら支払わない相手が悪いとしても、恐喝となってしまっては、相手に反論の口実を与えるだけですからその点はご注意ください。相手が払うと言っている以上、払うのであれば、保証をしても良いではないか、担保を付けても良いではないかと言う形で合理的・論理的に交渉をすすめていきましょう。

※最高裁は、債権取立てのためにとった手段が権利行使の方法として社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を逸脱した恐喝手段である場合には、債権額のいかんにかかわらず、その手段により債務者から交付を受けた金印の全額について恐喝罪が成立するとしており(最判昭和30年10月14日参照)、注意が必要です。

3 債務確認書を書いてもらう。

債務の存在自体に争いがないのであれば、債務確認書を書いてもらいましょう。これは支払い条件は書いておらず、債務額のみを確認するものです。売掛金(買掛債務)の消滅時効は2年ですので、時効を止める意味でも取っておくと良いです。なお、債務確認書には債権の発生原因を書いておくと良いでしょう。何を売ったから、もしくはどんなサービスをしたから売掛金が発生したのか、債権が生じた原因を詳しく書くと良いでしょう。

例)平成●年●月●日から●月●日までの間の商品●●の売買代金など

4 債務弁済契約書

次に、その債務をどうして支払えないのか、確認しましょう。相手方の資金繰りが苦しいのが事情であれば、本来は一括払いにすべきところを、先方の事情をくんで、話し合いに応じましょうという対応をしましょう。
なお、分割払いを認める場合には、以下の点を入れましょう。

  • (1)支払日・支払方法(振込か持参か)
  • (2)利息・遅延損害金
  • (3)期限の利益喪失条項
  • (4)連帯保証条項

5 会社の資産状況

3の債務弁済契約書を交わす際には、先方に会社の税務申告書・決算書(勘定科目一式も)も用意させましょう。先方の資産が分かることもあります。信用情報機関に調査書を依頼しても良いでしょう。

6 保証人の資産状況

できれば保証人の資産状況も聞いておきましょう。連帯保証を取る際には、自宅住所を書いてもらいましょう。自宅を書いてもらうことで、自宅であれば、所有不動産の有無が調査できます(登記簿はネットで調べることが可能です)。なお、法人の登記簿を取ると、代表者の住所は分かります。そこを手掛かりに相手方の社長自宅の登記簿も調査可能です。

7 債権譲渡契約書・代理受領委任契約書

交渉の結果、先方の売掛先等が分かる場合には、念のためこれらの書類ももらっておくと良いでしょう。

8 弁護士が入る場合

弁護士が入る場合の順序ですが、一般的には以下の順序になります。なお、事前の交渉によって、後の裁判の証拠に使える資料を得られることになりますので、弁護士に依頼する前にできうる限りの資料(1~6の資料)を準備しておくことが肝要です。

  1. 内容証明
  2. 交渉
  3. 交渉決裂⇒仮差押え(資産が分かる場合、先方の資産を凍結を図る手続)
  4. 訴訟提起
  5. 勝訴
  6. 強制執行

※資産のありかがわからず、先方も全く支払わない場合には回収不能となる事態も想定されます。ただし、ここまでしても債権回収できない場合には、貸倒損失が計上でき、一定の節税効果はあります(法人税基本通達9-6-2)。加えて、売掛債権の場合、取引停止後1年以上経過していれば、基本通達の9-6-3が使えるケースが多いでしょう。