商品を売却した場合の売掛金の回収が滞ってきたとか、倒産状態になったがどうすれば良いかというご相談を受けることもママあります。そのようなときに威力を発揮するのが動産売買先取特権です。
もっとも、いざという時の武器を使えるようにしておくために、取引基本契約書を締結しておくなど事前準備が非常に大事になります(「危ない取引先との取引について」参照)。
1 動産売買先取特権とは
動産売買先取特権は、抵当権や譲渡担保権と同じく、担保物権です。ただし、抵当権等のように当事者の合意に基づいて生じるものではないので、法廷担保物権ということもあります。担保物権というのはどういう意味があるかというと、動産を販売した買主が破産・民事再生法申立を行ったとしても、動産売買先取特権という権利が認められると、動産の売主は、動産を競売したり、買主が転売した転売代金債権等に対する物上代位により債権回収を図ることが可能でして、倒産時に多大な威力を生じるという意味があるのです。
2 動産売買先取特権を裁判所に認めてもらうためには何が必要か。
では、動産売買先取特権を認めてもらうためにはどうすれば良いのでしょうか。動産売買先取特権を行使するためには、
①売主と買主の売買契約を締結したこと(先取特権の存在、請求債権の存在)を立証する必要があります。
東京地裁の実務上の運用として、売買代金の弁済期が到来している必要があるとされています。
具体的には、以下の資料等で証明していくことになります。(動産が転売されており、転売代金債権を押さえに行く場合)
- 取引基本契約書
(期限の利益喪失事由があり、弁済期が到来していることのために必要) - 買主からの発注書
(単価や消費税について記載があると望ましい) - 売主作成の納品書及び請求書
(あればで結構です。)
※単価欄に記載があれば望ましいですが、空欄の場合等は単価表で支払う旨の合意や支払い実績に関する証拠等が必要になります。
②買主が転売の買主(エンドユーザー)に対し、①の動産を転売し、受領したことを立証する必要があります。
具体的には、以下の資料で証明していくことになります。
- 転売買主(エンドユーザー)から買主に対する発注書控え
- 買主作成の納品書及び請求書
- 商品納入の際の送り状
- 転売買主(エンドユーザー)受領印を押印した受領書
③転売買主(エンドユーザー)が買主への支払前であることが必要です。
実務上はこれが難しいことも多いです。要は転売買主が買主に支払ってしまってはダメだということです。時間との勝負です。
3 期限の利益喪失条項について
2項の①で確認したように、動産の売主は買主に対し、一括で代金を請求できる状態になっていることが必要です。
そこで、支払期日が後であったり、分割払いの約定であっても、買主が倒産危機の状態に陥った場合には、直ちに支払期日が到来して、一括払い請求ができるように準備をしておくことが必要と言えます。
これは事前準備が非常に大事ということでして、具体的には、売主は買主との間で、取引基本契約をきちんと締結しておき、危機状態には支払期日が到来するような条項(期限の利益喪失条項)を設けることが必要です。
(期限の利益喪失条項の例)
甲(発注者)および乙(受注者)は、相手方に以下の事由が生じた場合には、何らの催告も要せず、直ちに本契約および個別契約の全部または一部を解除することができる。
- 本契約および個別契約の条項に違反した場合
- 監督官庁より営業の取消、停止等の処分を受けたとき
- 支払停止もしくは支払不能の状態に陥ったとき、手形または小切手が一度でも不渡りとなったとき
- 差押、仮差押、仮処分、その他の強制執行、または競売の申立があったとき
- 破産、会社更生、民事再生の手続開始の申立を自ら行ったとき、又は申立てられたとき
- 公租公課の滞納処分等を受けたとき
- 解散の決議、合併、もしくは会社の財産の全部又は重要な一部を第三者に譲渡(事業譲渡または会社分割)したとき
- 相手方に対する詐術その他配信行為があったとき
- 災害、労働争議等、本契約または個別契約の履行を困難にする事項が生じたとき
- 債務者から支払いが出来ない旨の申し出があった時
- 前各号に準ずる不信用な事由があったとき
取引先との間で基本契約を結んでいない会社は早期に締結することをお勧めしますし、個別の契約書もきちんと交わしておくべきです。
事前準備により、連鎖倒産も回避することが出来るかもしれないのです。事前準備が会社を守ることになり、経営者、従業員、ご家族、さらには貴社の債権者を守ることにつながるのです。