危ない取引先(販売先)との取引について

取引先(販売先)が危ないと感じる場合には、これまで以上に債権保全に努めて取引をしなければなりません。倒産など万一の場合に、現状以上に滞納債務が膨らんだという最悪の事態にならないように留意する必要があります。取引先との取引において、事前にどのような準備をすると良いでしょうか。なお、デフォルト後の現実の債権回収の手法として、動産売買先取特権などがあります。

1 取引基本契約を締結しておく

後述のとおり、決算書の開示や保証人の徴求等を求めるとしても、事前に根拠がないと求めることは難しいことも考えられます。取引基本契約を事前に締結しておき、以下の工夫をしておくことが肝要です。

(1)期限の利益喪失条項

期限の利益喪失条項を設けることで、信用不安が生じた際に、動産売買先取特権の検討など直ちに債権回収の手段を講じることが可能となります。期限の利益喪失条項の例は、動産売買先取特権の稿で確認ください。

(2)契約解除、当然終了条項

期限の利益喪失条項とあわせてこれらの規定を設けることで適時に取引を終了させることが可能となります。

(3)所有権留保条項や増担保条項

商品の引き上げや担保要求が可能となります。

(4)信用情報取得条項

決算書、在庫の所在、転売先、売掛金、会社の支配権などの情報を取得できる条項にしておくことが考えられます。

2 決算書を求めておく

先方に会社概要(本店所在地、機関設計等を知るため、商業登記簿謄本等、定款)のほか、直近3か年の税務申告書・決算書(勘定科目一式)や直近試算表も用意させ、会社の経営状態、財政状態を確認します。資金繰り表も要請できればベターです。可能な限り、現地を訪問することも大事です。信用情報機関に調査書を依頼しても良いでしょう。もちろん大幅な債務超過や支払停止をしているなどの情報が分かれば、合理的な再建計画の提出を求め、これがない場合には取引停止すべきでしょう。

3 保証金等の差入要求

新規の与信に見合う程度の保証金を要求しましょう。

4 現金取引ないしは半金・半手を要求する。

これまで買掛サイトを与えていた取引先に対し、今後の与信幅を小さくすることが考えられます。一番厳しいのは現金取引の要求です。現金で払ってもらえなければ売りませんよと言う交渉です。もちろんそれなら買わないと言われるかもしれません。次に半分は現金で、半分は手形でという要求も考えられるところです。代替性のある商品かどうかによっても、どのレベルで交渉するかは変わってくると思います。

5 販売商品の担保を取る。

販売した商品についていざとなれば所有権に基づいて引き上げが出来るとベターです。
かかる場合に当該物品の代金を完済するまではひきあげ出来るとしておくと良いでしょう。このことを所有権留保といいます。
ただし、肝心の倒産時に対抗要件(不動産の登記のようなもの)をそなえておかないと、債権者は、債務者(破産管財人や民事再生を申立てた会社)に自社の所有権を主張できなくなってしまいます。
そこで、所有権留保付売買契約書にこの一文を入れると良いでしょう。「甲(債権者)は占有改定の方法によりその引渡を受けた。」
ただし、全くの第三者が知らないで転売を受けてしまった場合には、即時取得となり、この第三者が所有者となりますので、この方法だけではどうしようもありません。

6 先方の在庫を担保に取る。

自社が販売した商品に限定することなく、先方の価値のありそうな在庫を担保に取ることも有意義です。このことを譲渡担保といいます。ここでも対抗要件を備えておくことが必要です。
ただし、第三者が知らないで転売を受けてしまうと即時取得が認められてしまう点には注意が必要です。

7 集合物譲渡担保

5の方法は在庫がコロコロ変わる場合には有効ではありません。このような場合には、在庫商品を一括して譲渡担保に取る方法が有効です。対抗要件として、最もお勧めなのは、譲渡担保に登記をとることです。これにより容易に対抗要件の設定を受けることが可能となります。弁護士と司法書士との共同作業になります。

8 売掛金譲渡担保

先方に売掛金がある場合には、売掛金の譲渡を受けるとか、譲渡担保の設定を受けることも考えられます。売掛金は日々変わりますので、将来債権の譲渡担保を受けることも可能です。