民事再生と継続的供給契約

民事再生前の支払いについて、継続的供給契約か否かが問題となることがあります。継続的供給契約は何か、簡単に説明します。

1 問題の所在

民事再生を申し立てた会社は、通常、電気、ガス、水道水等の継続的供給契約を締結していますが、それが利用できなくなると、業務の遂行に大きな影響が生じてしまいます。そこで、民事再生を申し立てる会社(以下「再生債務者」といいます。)は、通常、この種の継続的契約の履行を選択することが一般的です。
この点、民事再生法49条4項によると、再生債務者が「双方未履行債務」について、履行を選択した場合には、相手方の有する請求権は「共益債権」※として保護されますので、問題がないように思えます。
しかし、継続的供給契約は、給付が「可分」である以上、再生手続申立前の給付に係る相手方の債権は既履行債務として、「再生債権」※となってしまいます。民事再生手続開始決定後は、再生債権の弁済は禁止されますので(同法85条1項)、取引の相手方から、申立前の給付に係る請求権について履行がないことを理由として以後の給付に応じないと言われてしまいますと、再生債務者の再生が阻害されてしまう事態が生じます。

※定義

「共益債権」
随時支払われる債権(免除なし)
「再生債権」
再生手続開始決定日の前日までの原因に基づいて生じた債権(免除対象債権)

2 民事再生法50条

そのため、民事再生法は、再生債務者に対して、継続的給付義務を負う契約の相手方は、再生手続開始申立前の給付に係る債権について弁済がないことを理由として、再生手続開始後の給付を拒むことができないと定めています(民事再生法50条1項)。
このことに対応して民事再生手続開始の申立後、再生手続開始前に、相手方が行った給付に係る対価の請求権を「共益債権」としています(同法50条2項)。ちなみに、一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付については、申立の日の属する期間内の給付に係る請求権を含むとしております(同法50条2項括弧書)。
例えば、電気料金の検針日を毎月1日として、6月10日に申立て、同月15日に開始決定という設例の場合、6月10日から同月15日の電気料金だけでなく、6月1日から9日の電気料金も共益債権となる訳です。なお、開始決定後の電気料金は当然に共益債権となります。

3 継続的供給契約には何が含まれるのか。

では、継続的供給契約には何が含まれるのでしょうか。
この点、民事再生法50条の趣旨は、再生債務者による個別発注を待たなくても、相手方の継続的給付(先履行)が法令上または契約上義務付けられているような形態の契約であれば、再生手続開始決定の効果をいわば前倒しして、再生のために給付の安定的な履行を図るとともに、可分であることから、本来は「再生債権」となってしまう相手方の債権を「共益債権化」して、保護しようという点にあると考えます。そこで、民事再生法50条にいう継続的供給契約に該当するか否かは、契約に基づく相手方の履行が「先履行」か否か、「可分」か否か、当然に義務付けられているか否かという観点から判断すれば良いことになります。
そうすると、運送・清掃・ビル管理などの役務の提供も、「先履行」「可分」で、契約により、当然に義務付けられているものであれば、民事再生法50条にいう継続的供給契約に該当することになります。
他方で、賃貸借契約は、50条にいう継続的供給契約に該当しないことになります。なぜなら、再生債務者が賃借人で、相手方が賃貸人とした場合、既に目的物の占有が再生債務者の占有に移っており、「不可分」と言え、賃貸人が継続的給付をするという観念になじまないからです。また、賃料の支払いがないことを理由に、後ろの期の給付の履行を拒絶する関係にも立たないからと言われています。