特別清算による旧会社の整理について

本項では、いわゆる第二会社方式実行後の旧会社を特別清算手続によって清算する場合の手続及び留意点を述べます。

1.解散から特別清算申立までの準備事項
(1)株主総会
   旧会社を解散して清算を結了させるまでには、株主総会を複数回開催することが必要となります。機動的、安定的に株主総会の決議を得ることを考えると、解散までにできる限り株式を集約しておくことが望ましいといえます。
(2)清算人
   解散決議と同時に代表清算人を選任することになります。旧会社の代表者をそのままスライドさせて代表清算人に選任するほか、私的整理段階の代理人弁護士を代表清算人とすることもあります。
(3)解散における留意事項
   第二会社方式実行後の旧会社を特別清算手続によって清算する場合であっても、解散や特別清算開始決定が発令された際には、その旨が官報に掲載されることになるため、信用不安が生じる可能性があります。
   そのため、実務的には、解散と同時に商号変更を行います。
新しい商号は、従前の会社、事業との関係性を推知させないようなまったく無関係な商号を用います。そのうえで、あわせて本店所在地を別の法務局が管轄する住所に変更します。別の法務局に管轄を移転した場合には、以後、新しい法務局で登記した事項のみが登記情報に記載されるため、旧会社の情報を一定程度遮断することが可能となるからです。このときの新しい本店所在地としては、旧会社代理人弁護士の法律事務所の住所を利用することが多いです。
   上記対応を取ることによって、旧会社の清算によって新会社に信用不安が生じる可能性をある程度低減させることが可能となります。
   もっとも、本店所在地変更前の法務局を調査すれば過去の情報を取得すること自体は可能であり、実際に信用調査会社ではそういった旧会社の情報を調査することもあります。そのため、旧会社の情報を完全に遮断することは難しいのが実情です。
(4)債権申出の催告と特別清算申立同意書の徴求
   旧会社を解散後、遅滞なく、債権者に対して2か月以上の期間を定めて、債権申出の催告を行う必要があります(会社法499条)。具体的には、官報公告と知れている債権者への個別催告を行うことになります。
   第二会社方式実行後の旧会社の場合、主たる債権者は金融機関が中心であると思われます。特別清算手続の申立て時には、債権者の総債権額の3分の2以上の者による申立同意書の提出が必要とされている関係で、債権申出と同時に、申立同意書もあわせて取得しておくことが便宜です(前提として、私的整理段階の事業再生計画における金融機関への依頼事項の中に、「特別清算申立へ同意すること」を依頼しておくべきです。)。
(5)弁済禁止について
   旧会社は上記(3)の債権申出催告期間中は、債務の弁済をすることが原則として禁止されています(会社法500条1項)。債権申出催告期間は官報掲載日が起点になる関係で、解散から官報掲載日までの間は弁済禁止の対象外と解する余地がありそうですが、実務上は、解散の翌日から債権申出催告期間満了日までの間を弁済禁止期間として運用されているようです。弁済禁止期間中は、すべての債務が弁済されないように留意する必要があります。自動引落を失念する可能性もありますので、あらかじめ口座を解約して清算人や代理人弁護士名義の口座に資金シフトしておくべきでしょう。
なお、ここで弁済禁止の対象となる債務には、公租公課等の法律上の優先権のあるものも含まれます。解散までに未払公租公課が生じている場合には、解散までに納付しておくべきですし、解散後に生じたものについては弁済禁止期間終了後速やかに納付することになります。
担保権の任意売却に伴う内入れ弁済も弁済禁止の対象となります。例外的に裁判所の許可を得て弁済することは可能です(債権申出催告期間中につき会社法500条2項、債権申出期間経過後につき、会社法537条2項参照)が、円滑な手続遂行を考えますと、担保権の処理は解散までに終えておくことが望ましいといえます。
(6)特例有限会社の場合の留意点
   特例有限会社は特別清算手続を利用することができません。そのため、特例有限会社について特別清算を利用する場合には、解散前に、株式会社に組織変更しておくことが必要となります。特例有限会社を株式会社に組織変更するにあたっては、特例有限会社については解散の登記、株式会社については設立の登記をしなければならず、これらの登記は同時に申請しなければならないとされております。したがって、特例有限会社を解散した後になって株式会社に組織変更することはできません。
このように、特例有限会社について特別清算の利用を検討する際には、手続の順番を間違えないように留意する必要があります。

2.特別清算手続の進め方
(1)申立手続費用
   特別清算の申立費用は、以下の通りとされております。
  ア 申立手数料 2万円
  イ 予納郵券
     (ア)協定型  638円(84円×7セット、10円×5セット)
     (イ)和解型  544円(84円×6セット、10円×4セット)
  ウ 予納金
     (ア)協定型  5万円
     (イ)和解型 9632円
(2)申立書添付資料
   以下は、和解型の場合の申立書添付資料の一例となります。
   ①清算株式会社の登記事項証明書
   ②株主名簿(解散時のもの)(住所記載不要)
   ③債権申出催告の官報公告写し
   ④清算財産目録
   ⑤清算貸借対照表
   ⑥収支計算書
   ⑦債権者名簿(住所記載不要)
   ⑧債務者名簿(住所記載不要)
   ⑨債権者の申立同意書
   ⑩事業再生計画書
   ⑪事業譲渡契約書ないし吸収分割契約書等
   ⑫清算貸借対照表等に関する株主総会の承認決議の議事録写し
   ⑬直近2期分の貸借対照表及び損益計算書
   ⑭清算人の履歴書
   ⑮定款写し
   ⑯清算人の報酬放棄書
   ⑰和解契約書案
(3)和解型を念頭に置いた具体的な進め方
  ア 和解契約の条件協議
   特別清算の申立てを報告する際に、申立書添付の和解契約書案を提示するとともに、早急に具体的な和解条項について協議を進めます。私的整理段階の事業再生計画に基づいて手続が進められている場合であれば、債権者との間の和解条件の協議はそれほど時間を要しないと思われます。
 イ 和解許可申立て
特別清算開始後、速やかに、債権者との合意に至った和解契約書に基づき、和解許可を申し立てます。同許可取得後、速やかに、債権者との間で和解契約書の締結を進めます。
  ウ 和解契約の履行
    和解契約書締結後、所定の条件に沿って、弁済金を弁済します。債権者からは、弁済金の受領と引き換えに残債権を放棄していただきます。特別清算における配当原資がねん出できない場合には、いわゆるゼロ弁済による債権放棄を受けることもあります。
和解契約の履行により、すべての債務が消滅することになります(特別清算の結了)。
  エ 終結決定申立て
    和解契約の履行後、特別清算の終結申立てを行います。通常はそれほど時間を空けずに終結決定が発令されます。
    特別清算申立までに財産換価が完了している場合であれば、特別清算開始から終結決定まで1か月から2か月程度で進めることも可能です。
終結決定は確定によって終結の効力が生じます。終結決定から同決定の確定までの必要期間はおおむね4週間程度となります。
    終結決定確定後は、裁判所の職権によって特別清算終結の登記がなされます。
  オ 残余財産確定申告
    和解契約の履行によって残余財産が確定することになりますので、残余財産確定申告を行うことになります。法人税均等割り程度の税金を納付しなければならない場合がありますので、あらかじめ納税資金を準備しておくことが必要となります。
(4)保証債務整理との関係
   主債務者である旧会社の債務のために、代表者等が連帯保証している場合が多いと思われます。
   特別清算と保証債務との関係について、協定型の場合は、協定の効力は保証債務に影響しないことが明文で規定されている(会社法571条2項)のに対して、和解型の場合には主債務の債務免除の効力が附従性によって保証債務に影響すると考えられていたことから、従前は、協定型が利用されることも多かったと思われます(債権者の債権放棄についての貸倒処理が明確である点も協定型のメリットのひとつとされております。)。
   現在は、経営者保証ガイドラインを活用した保証債務整理も実務に浸透してきており、特に、中小企業再生支援協議会などによる準則型私的整理の局面では、会社の債務と代表者等の連帯保証人の保証債務とを一体的に処理する事例が増えてきております。経営者保証ガイドラインを活用する場合には、同ガイドラインに基づき策定する保証債務弁済計画に基づき保証債務を整理することになります(一定の弁済と引き換えに残りの保証債務の免除を受ける等)。そうしますと、旧会社の特別清算以前に保証債務の整理が完了することも多くなると予想されます。
   特別清算以前に保証債務の整理が完了している場合には、保証債務への影響を考慮して手続選択する必要はなくなりますので、手続面、費用面での負担が軽い和解型を利用するケースが増えてくるのではないかと思われます。