廃業支援型特定調停とは

平成29年1月に「事業者の廃業・清算を支援する手法としての特定調停スキーム利用の手引き」が公表されました。廃業支援型特定調停とはどのようなものなのでしょうか。

1 破産手続との比較

事業者の廃業・清算をする手法としては、破産手続がありますが、裁判所ごとに定められた予納金の金額を、事業者と保証人それぞれが納める必要があり、その負担は重く、破産すらできない会社もいますし、破産が出来ても、配当ゼロの会社も少なくありません。主債務の整理を破産手続で処理し、保証人を経営者保証に関するガイドラインを活用して整理することも可能ですが、主たる債務の整理と別個の処理となってしまうため(いわゆる「単独型」)、金融機関との信頼関係の構築に時間を要することが多いと言えますし、インセンティブ資産を残すことが難しいケースも少なくありません。
これに対し、廃業支援型特定調停を活用すれば、破産手続の予納金と比して低廉な費用で利用可能な場合が多いと言えます。金融機関と協議して申立時期を調整することも可能であり、無用に申立てが遅れることがなく、迅速な解決を図ることも可能です。主たる債務の整理と一体処理ができることから、金融機関との信頼関係構築も比較的しやすく、経営者保証に関するガイドラインの活用も比較的スムーズにできます。

2 特別清算との比較

主債務者を特別清算、保証人についてGLを活用した特定調停で債務整理をする手法も活用されていますが、特別清算と特定調停は別手続であり、裁判体も異なることが通常ですので、一体的な処理は出来ません。また、特別清算は、弁済禁止期間等法定で定められた期間があり、事実上手続が中断してしまう期間があるほか、株式会社しか利用できず、個人事業者等が利用できない問題もあります。これに対し、本スキームの場合、このような制約がなく、一体的な処理が可能ですし、法定の期間により手続が中断することもなく、個人事業者など株式会社以外も利用可能という点がメリットと言えます。

3 廃業支援型特定調停の進め方

廃業支援型特定調停スキームを利用して主たる債務と保証債務を整理する場合の手順(例)は、概ね次のとおりです。

  1. 廃業の決断
  2. 一時停止や返済猶予の要請
  3. 弁済計画等の資料作成
  4. 金融機関との事前調整・協議
  5. 特定調停の申立
  6. 特定調停成立ないし17条決定

廃業支援型特定調停スキームでは、特定調停の場で弁済計画の協議を行うことは想定されておらず、代理人弁護士に対し、申立前に弁済計画等を策定し、金融機関との間で事前調整を行い、特定調停申立前に金融機関の同意の見込みを得ておくことを求めています。代理人弁護士においては、金融機関との間で十分に調整・議論を尽くすことが望まれるとされています。
廃業支援型特定調停では、一般商取引債権の全額支払いが可能なことを原則としていますが、一般商取引債務の弁済に当たっては、対象債権者である金融機関の理解を得ることを前提としています。一般商取引債務の弁済をしても経済合理性が確保できるかどうか十分な調整、確認が求められます。
また、中小企業の場合、信用保証協会付きの借入金があることが多いですが、信用保証協会の求償権放棄の取扱いに適合する必要があります。資産処分が先行し、現預金等しか資産がない場合は別として、信用保証協会が求償権を放棄する条件として、財産目録や弁済計画の策定にあたって、外部専門家の税理士や公認会計士の関与が求められていることに留意することが必要とされています。また、信用保証協会の場合、個人事業者など保証人がいないケースは別として、保証人がいる事業者の場合、事業者のみを単独で特定調停手続を利用して廃業・清算させたいと考えても(保証債務の整理は破産手続を利用する場合など)、信用保証協会は求償権放棄に対応することができないとされているので、留意が必要です。

3 参考文献

当事務所弁護士が執筆した以下の文献(いずれも共著)もご確認ください。