事業再生局面で不動産を移転させる場合の税務上の検討

事業再生局面において、第二会社方式を採用することは多く、会社分割等により、事業用の不動産(自社所有、代表者名義など様々)を新会社に移転させることがあります。また、非事業用の不動産を第三者に換価・売却することがあります。

1 登録免許税

 登録免許税は発生します。かつては軽減措置がありましたが、現在は通常の不動産取引と同じように課税されます。

2 不動産取得税の検討

事業譲渡でも会社分割でも不動産取得税は、原則的に生じます。

しかし、会社分割スキームの場合、一定の場合には不動産取得税が生じないことがあります。株式以外の譲渡対価を支払わないことがポイントになります。なお、スポンサー型スキームの場合、金融債務が新会社(分割承継法人)に全く移転しないことがあります。その場合でも(2)①を満たすと考えられますが、当局との間では争いになることもありますので、念のため、関係当局に確認しておくことが望まれます。

(1)以下のいずれかの分割において、それぞれの条件を満たすこと(吸収分割、新設分割とを問わない)

<分割型分割>

① 分割対価資産として、分割承継法人の株式以外の資産が交付されないこと

② 当該株式が分割法人の株主等の有する当該分割法人の株式の数の割合に応じて交付されるもの

<分社型分割>

① 分割対価資産として、分割承継法人の株式以外の資産が交付されないこと

(2)以下の項目に全て該当すること

① 当該分割により分割事業にかかる主要な資産及び負債が分割承継法人に移転していること

② 当該分割に係る分割事業が分割承継法人において当該分割後に引き続き営まれることが見込まれていること

③ 当該分割の直前の分割事業に係る従業者のうち、その総数のおおむね 100 分の 80 以上に相当する数の者が当該分割後に分割承継法人に従事することが見込まれていること

3 個人名義の不動産を移転させる場合の譲渡所得税

個人名義の事業用不動産を新会社や第三者に譲渡した場合、原則として、譲渡所得税が発生します。

もっとも、保証人個人は、保証債務を履行するために譲渡したことになりますので、所得税法第64条第2項を活用できないか検討することになります。

同条項では、保証債務を履行するため資産(棚卸資産等を除きます。)の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは、その行使することができないこととなった金額(不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を除きます。)をその譲渡があった年分の譲渡所得等の金額の計算上、なかったものとみなすと規定されています。所得税法第64条第2項に規定する「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」の判定については、所得税基本通達64-1において、同通達51-11から51-16までの取扱いに準ずる旨規定されています。

金融機関の債権放棄については、第二会社方式を活用することが多く、旧会社は特別清算により債権放棄を受けることが多いです。同通達51-11(2)では、特別清算に係る協定の認可の決定により切り捨てられることとなった部分の金額については、求償権の行使不能とみることができる場合が多いと考えられます。また、旧会社を破産させる場合であっても、同通達51-12に該当すると考えられると思われます。

直接放棄の場合には個別判断になりますが、同通達51-11(3)ロは、法人税基本通達9-6-1(3)ロと同様に、法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で一定のものにより切り捨てられることとなった部分の金額については、貸倒れとして損金の額に算入する旨規定されています。中小企業再生支援協議会特定調停等の第三者関与のケースの場合には、求償権行使不能と認められるケースも相応にあると考えられます。例えば、廃業支援型特定調停スキームの場合には、想定事例では、同通達51-11(3)に該当し、求償権行使不能と認められるとされています(国税庁ウェブサイト)。

以上のとおり、所得税法第64条第2項により、譲渡所得等の金額の計算上、なかったものとみなされると考えることできますので、税理士等の専門家とも協議しながら、不動産の移転について検討することとなります。

なお、所得税法施行令第26条において、強制換価手続の執行が避けられないと認められる場合においては、所得税法9条1項10号において、非課税となりますので、当該要件を検討する場合もあります。この場合、所轄税務署長あてに上申書の提出を行うことで疎明を行うことが求められます。具体的には、売却に至った経緯、現在の生活状況(家計状況、収支状況)、売買契約書等の客観的資料の開示が求められるでしょう。