経営者保証に関するガイドラインはどのような場合使えるのか(要件論)

経営者保証に関するガイドラインはどのような場合に活用できるのでしょうか。経営者保証に関するガイドラインの要件(主に申出要件等)を確認していきましょう。

1 経営者保証に関するガイドラインに基づく保証債務の整理申し出の要件(概論)

経営者保証に関するガイドラインに基づき保証債務の整理を対象債権者に対して申し出るためには、以下の4つの要件{イ)~ニ)}を全て充足する必要があります(経営者保証に関するガイドライン7項(1))。

  • イ)対象債権者と保証人との間の保証契約が経営者保証GL3項の全ての要件(※)を充足すること
    ※ 3項の要件
    1. 保証契約の主たる債務者が中小企業であること(注1)
    2. 保証人が個人であり、主たる債務者である中小企業の経営者であること(但書は略)。(注2)
    3. 主たる債務者及び保証人の双方が弁済について誠実であり、対象債権者の請求に応じ、それぞれの財産状況等(負債の状況を含む。)について適時適切に開示していること(注3)
    4. 主たる債務者及び保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと
  • ロ)主たる債務者が法的債務整理手続の開始申立て又は準則型私的整理手続の申立てを経営者保証に関するガイドラインの利用と同時に現に行い、又は、これらの手続が係属し、若しくは既に終結していること
  • ハ)対象債権者において、破産手続による配当よりも多くの回収を得られる見込みがある等、経済的な合理性が期待できること(注4)
  • ニ)保証人に破産法252条1項(10号を除く)に定める免責不許可事由が生じておらず、そのおそれもないこと(注3)

注1は主たる債務者の要件、注2は保証人の要件です。注3の要件を誠実要件とか適格要件と言うことがあります。注4を経済的合理性の要件と言います。いずれも重要なので項を改めて説明します。

3 主たる債務者の要件及び手続論

経営者保証に関するガイドラインの適用対象となる保証契約は、主たる債務者が中小企業であることとされています(経営者保証に関するガイドライン3項(1))。
しかし、これらに限定せず、それを超える企業も対象になります。個人事業主も対象に含まれます(経営者保証に関するガイドライン QA3)。

主たる債務に関する要件として、手続的に注意が必要なのは、主たる債務者が法的手続、もしくは準則型私的整理手続(再生支援協議会や特定調停等)の申立てを同時に行うか、既に終結していること(経営者保証に関するガイドライン7項(1)ロ)、経営者保証に関するガイドラインQA7-5)が求められている点です。逆に言えば、主たる債務者が純粋私的整理の場合、原則、保証GLは活用できないのが原則となります。何らかの理由で主たる債務の整理について純粋私的整理で進めるしかない場合には、第二会社方式にして、主たる債務者(旧会社)を破産ないし特別清算することが必要になります。

主たる債務者と債権者が純粋私的整理で手続した場合でも、保証人についてガイドラインの手続に即して、保証債務の整理を行うことが妨げられるものではないとありますが(経営者保証に関するガイドラインQA7-2)、これは厳密にはガイドラインの手続とは別の純粋私的整理手続であることに注意が必要です。

4 保証人及び対象債権者の要件

保証人が個人であり、主たる債務者である中小企業の経営者であることも要件とされていますが、いわゆる第三者による保証について除外するものでないとされています(経営者保証に関するガイドライン3項脚注5参照)。経営者保証に関するガイドラインは、連帯保証の整理全般に広く活用できるルールといえます。

保証人について手続的に重要なのは、保証人のみを「単独」で整理する場合、「原則として、保証債務の整理に当たっては、当該整理にとって適切な準則型私的整理手続を利用する」こととされている点になります(経営者保証に関するガイドラインQA7-5)。保証人の整理のみを純粋私的整理で行っても、厳密には経営者保証ガイドラインに基づく整理とは認められない訳です。実務上、保証債務のみ(「単独型」)を整理する準則型私的整理手続は、特定調停と再生支援協議会の2つがあります。

なお、「合理的理由に基づき、準則型私的整理手続を利用することなく、支援専門家等の第三者の斡旋による当事者間の協議等に基づき、全ての対象債権者との間で合意に至った場合には、かかる弁済計画に基づき、対象金融機関が残存する保証債務の減免・免除を行うことは妨げない。」(経営者保証に関するガイドラインGL7項(3)④ロ)とされており、かかる事例も報告されております(事業再生と債権管理148号)。

5 対象債権者の要件

対象債権者には、金融機関だけでなく、信用保証協会(代位弁済前も含みます)、債権回収会社(いわゆるサービサー)、公的金融機関も含まれます。

他方で、商取引債権者やリース債権者、保証人個人に対する債権者(保証人が主債務者になっている場合の債権者)を対象債権者に含まれておりません。そこで、保証人の自宅に住宅ローンなどの個人的借入金がある場合、原則として、これらの債務は対象外となり、経営者保証に関するガイドラインの対象外になります。そのため、住宅ローン等を払い続け、自宅を守りながら、保証債務の整理が出来ることもメリットと言えるでしょうし、他方で、住宅ローンの負担が重く(オーバーローンの額が大きい場合)、経営者保証に関するガイドラインで債務整理をすることが保証人の経済的更生に資するのかという問題が生じる場合もあります。

なお、個人的借入金額が過大であるような場合など、保証債務を整理する局面において、弁済計画の履行に重大な影響を及ぼすおそれのある債権者について、対象債権者に含めることができるものと定めています(経営者保証に関するガイドライン7項(3)④ロ)ので、ケースによっては本来の対象債権者以外の債権者も対象債権者に加えることが出来る場合もあります。

6 誠実要件(適格要件)

主たる債務者・保証人の双方が弁済について誠実であり、対象債権者の求めに応じ、それぞれの財産状況等について適時適切に開示していること(3項(3))と保証人に破産法252条1項(10号除く)に規定される免責不許可事由が生じておらず、そのおそれもないこと(保証GL7項(1)ニ、保証GLQA7-4-2)の2つを誠実要件(適格要件)と呼ぶことがあります。


誠実性要件(適格要件)については、保証人について保証GLの適用を認めることが相当かどうかの適格性を問うものですので、形式的に判断するのではなく、経営者保証に関するガイドラインによる保護を与えるのが相当ではないと考えられる程度の悪質性や重大性を備えるものに限ると解釈されるべきと解されています(「ニューホライズン」小林信明53頁参照)。

なお、保証債務の整理局面において、自由財産を残存資産として残し、それを弁済対象にしないことをもって、「弁済について誠実」であるという要件に該当しなくなるということはあり得ません(経営者保証に関するガイドラインQA3-4。当事務所弁護士が担当した事例ですが、事業再生と債権管理155号においても、自由財産を残すことをもって、弁済について誠実かどうかが問題となった事例が掲載されております。)

7 経済的合理性の要件

経済的合理性の要件は、申出時も問題になりますが、どちらかというと残存資産の範囲の確定の箇所で問題なりますので、そこで触れることにします。

8 経営責任の要件

「一体型」の場合には、通常、経営責任も問題となりますが、必ずしも退任が求められるわけではなく、以下の点に鑑み、総合的に勘案することになります。「単独型」の場合には、通常、問題になりません。

  • イ)主たる債務者の窮境原因及び窮境原因に対する経営者の帰責性
  • ロ)経営者及び後継予定者の経営資質、信頼性
  • ハ)経営者の交代が主たる債務者の事業の再生計画等に与える影響
  • ニ)準則型私的整理手続における対象債権者による金融支援の内容