民事再生申立直後の留意点

民事再生申し立てをした直後の申立人(会社)の留意点について、簡単に整理しました。

1 混乱回避(現場保全)

民事再生の申し立てにより、全債権者にファクシミリを送信することになります。そのため、全債権者に民事再生申立ての事実が知られることになります。時には、納品した商品を返すように要求してきて、いわゆる「取り付け騒ぎ」が起こることがあります。中には、裁判所を介した法的手続を介さずに、力づくで持って帰ろうとする人もいます。もちろん、そのような行為を許すことはできません。民事再生で重要な「債権者平等」に反しますし、一つでも例外を許せば、我先にと他の債権者も同様の行為を起こし、収集がつかなくなってしまうからです。
そうなると、とても再生はできず、破産手続に移行することになります。
そこで、通常は、弁護士名で「警告書」を張るほか、現場保全用の弁護士を派遣し、業者対応をしてもらうわけです。

2 従業員

民事再生は、再生型の手続ですが、現在の日本ではまだまだ「倒産」というイメージも強いものです。従業員は自分の会社が大丈夫なのか、給料は払ってもらえるのか心配になっているはずです。
そこで、従業員向けに、給料はきちんと支払われること(一般優先債権として弁済棚上げの例外となること)を話して、安心してもらうことが大事です。民事再生による事業再生を目指すにあたっての大義名分の一つとして、雇用の場を確保するという意義がありますので、丁寧に説明して、理解と協力を得られるよう努めるべきです。中にはリストラの一環として、整理解雇が必要な局面があることは否定できませんが、そうした場合には、複数回に小出しすることなく、一度っきりにすれば、従業員の心配も少しは払しょくできるでしょう。
従業員には、後述する取引先対応などいろいろと協力してもらう必要があり、これが再生の命運を握るという面もありますので、従業員対応には十分に気を付けるべきです。従業員説明会のほか、個別の相談に乗ることも多いです。

3 取引債権者

取引業者の中でも仕入れ業者は、債権者になりますので、債権の一部が「再生債権」として、債権カットの対象となるところも出てきます。当然、そうなると、取引継続を拒否されてしまったり、取引は継続しても、買掛サイトを大幅に短縮されるよう要求されることが多いものです。そこで、取引業者の債権を保護する工夫をするとよいでしょう。
どうしても法律上の問題や資金繰り等の理由で工夫ができない場合には、会社の希望する取引条件を事前に決めて、個別に交渉するしかないでしょう。
交渉のポイントは、①民事再生手続に協力することで、取引債権者の債権の回収額が増加する。②仕入業者からすると、会社は販売先の一つですから、販売先である当社が残ることで、当該仕入れ業者が引き続き収益をあげられる関係にある。以上の2つを丁寧に説明し、誠実に対応するほかありません。民事再生を申し立てた以上、協力してもらうことが債権者にとってもメリットがありますので、協力してもらうよう熱意をもって、誠実に説明することが大事です。

4 金融機関(銀行)

多くの案件では、銀行が最大の債権者でしょう。銀行に預けてある預金と借入金は、相殺対象となってしまいます。そこで、申立前に、預金は借入金のない銀行口座か弁護士名義の預かり口座に移すことになります。
また、銀行口座には、売掛金などが入金されます。民事再生申立後に入ってきた預金と銀行の借入金の相殺を防ぐ必要があります。そこで、民事再生の申立後、速やかに申し立てした事実をファックス等で知らせ(送信履歴は残しておきます)、できれば、個別の訪問でもその事実を知らせます。これにより、民事再生法93条1項4号の規定により、相殺が禁止され、運転資金を確保することが可能となります。
そのほか、銀行から自動引き落としで弁済がなされることを防ぐため、この点も銀行向けの書面で通知しておくことが必要です。

5 リース業者

リース債権は、「共益債権」とするか、「別除権付再生債権」とするかですが、近時の最高裁を踏まえ(最判平成7年4月14日、最判平成20年12月16日)、別除権付再生債権と考えるべきです。そこで、リース業者との間では、必要な物件とリース契約の選別をするとともに、処分価値を目安に別除権協定を締結するよう交渉することが必要でしょう。

※別除権協定

別除権協定は、別除権の目的財産の受戻し(民事再生法41条1項9号)を内容とする契約です。この協定に基づく「別除権評価額」の支払いは、「共益債権」となります。 基本的には処分価値で交渉することになります。 なお、リース契約書には、民事再生手続開始の申立てがあったことを解除事由とする特約が付いていますが、上記最判平成20年12月16日は、かかる特約は、民事再生手続の趣旨、目的に反することは明らかとして、同特約を無効として、これに基づく解除は効力を生じないとした原審を認めております。したがって、リース会社は、再生手続の申立てだけを理由としてリース契約を解除することはできません(上記判例の趣旨はリース契約以外の契約にも及ぶと考えられております。)。

6 税金・社会保険料

税金・社会保険料は、一般優先債権となり、民事再生手続き開始申し立て後も再生手続きによらずに権利行使ができます。多額の未払いがある場合には、民事再生の申立自体が困難になります。当局との間で、民事再生の申立前後に、「分割払い」等の交渉をしておき、滞納処分がなされないように動くことが必要です。 スポンサー型の支援が見込まれる場合には、スポンサーからの事業譲渡代金により、公租公課の滞納解消が出来ることを説明します。

7 債権者説明会

民事再生の申立後、開始決定前に、通常は債権者説明会を開催します。そこで、会社は、会場の手配が必要です。私的整理と異なり、金融機関以外に、多数の取引業者(仕入れ業者)も参加します。そこで、十分に余裕のある広さの会場を確保する必要があります。)
監督委員の弁護士・補助の公認会計士に参加いただき、以下の事項を説明します。
監督委員は債権者説明会の状況を見て、開始決定を認めるか否かの参考にします。

  1. 民事再生申し立てに至った経緯
  2. 清算配当の見込み(ただし、安易に説明しないほうが良い場合もあります)
  3. 民事再生の説明
  4. 監督委員の役割
  5. 民事再生手続のスケジュール
  6. 再生の基本方針(自主再建かスポンサー型か)
  7. 今後の希望する取引条件
  8. 少額弁済実施の見込み
  9. 倒産防止共済等の説明