民事再生の意義、メリット、概要

本稿では、再建型法的手続である民事再生を活用する意義、メリット、留意点、概要について説明します。

1 目的

民事再生法の目的は、第1条(目的)に記載されています。「経済的に窮地にある債務者について、その債権者の多数の同意を得、かつ裁判所の認可を受けた再生計画を定めることにより、当該債務者の事業の再生を図ることを目的とする。」とされています。

2 他の手続と比較したメリット

(1)破産との比較

破産手続は、清算型手続ですが、民事再生は再建型手続です。そのために、以下のような違いがあります。
例えば、破産手続の場合、破産管財人が選任され、財産管理処分権は破産管財人に専属し(破産法78条1項)、破産者の事業は原則として破産手続により廃止され、破産管財人により清算手続が行われます。これに対し、民事再生手続の場合、債務者は原則として業務遂行権及び財産管理処分権を失わず(民事再生法38条1項)、裁判所は後見的に監督をしますが、事業継続しながら、事業再生を目指すことに違いがあります。

(2)私的整理との比較

当事務所では、私的整理手続を優先的に検討します。なぜなら、私的整理の場合、事業価値の棄損を回避できること、手続コストも相対的に低廉であり、経済合理性が高いと言えるからです。
一方で、以下の場合には、民事再生手続の利用を優先的に検討すべきです。以下は一例であり、その他の事情で民事再生手続を選択するケースもあります。
第1に、事業負債の支払停止をしなければ、資金ショートが回避できない場合、現状を放置すると、信用不安が生じますので、私的整理の継続は容易ではありません。むしろ民事再生手続を活用して、抜本的処理をする方が合理的ともいえます。特に、手形不渡りが必至の場合やすでに手形不渡りを生じさせる場合には、民事再生手続での再生を検討することが必要になるでしょう。
第2に、個別的債権回収行為への着手が始まっている場合、現状を放置すると、債権者不平等が進んでおり、どのみち私的整理が遂行できるはずもありません。このような場合には、早期に公平かつ公正な手続きである民事再生手続を申し立てるべきです。
第3に、民事再生手続の武器を使う必要性が高い場合です。例えば、双方未履行双務契約について、民事再生手続であれば、一方的に契約解除することが可能です(民事再生法49条)。これにより高額な違約金や違約罰のある約束を平常時にしていても、場合によっては、当該契約の効力を覆滅させることが出来ることになり、私的整理では取り組みにくい抜本的な事業改善が出来る点がメリットです。また、担保権消滅請求なども活用を検討することがあります(当事務所の事例でも担保権消滅請求を活用し、民事再生前の契約を覆滅したことにより、抜本再生を図ることが出来た事例があります。)。
第4に、信用棄損リスクが小さい場合です。例えば、「B to C」 ( Business to Consumer)の事業の場合、相対的に信用不安が生じにくく、売上減少等も生じません。このような場合には、ケースによっては民事再生を優先的に検討する場合もあろうかと思います。
第5に、時限性がある場合とか、スポンサー選定に要する時間が乏しい場合(緊急性がある場合)などになります。私的整理の場合には、全金融機関の同意を得るために、時間を要することが多く、時間的に間に合わない場合もあります。スポンサーの意向でどうしても一定期間までに手続を完了させる必要がある場合も同様です。このような場合は、ケースによっては、民事再生手続の検討を優先することもあるでしょう。
第6に、企業再生税制が活用できる点です。もっとも、一部の私的整理では企業再生税制が活用できます。

3 民事再生手続申立ての留意点

民事再生手続の一番の留意点は、取引先を含め全債権者を巻き込むことです。一定程度事業価値の棄損が避けられません。
もっとも、商取引債権の支払をすることにより、事業価値の維持・向上が見込まれる場合には、裁判所の許可を得て、支払が出来る場合があります(具体的な方法はこちら。民事再生法85条5項後段)。
また、どうしても裁判所を活用する重厚な手続のため、代理人弁護士費用、会計士費用、裁判所に納付する予納金(監督委員の報酬)が重くなります。

4 手続の概要

(1)事業の継続が前提となる一方で一定の義務や行為制限を受けること

民事再生は事業再生のための手続ですので、申立てがあったからといって事業が廃止されるわけではなく、申立前と変わらず事業活動は継続することになります。ただし、民事再生手続が適正に行われるように、裁判所から選任された監督委員(弁護士)の監督を受けることになりますので、一定の行為(借入を受けること、資産を売却すること等)については、事前に監督委員の同意を得ることが必要となります。また、再生債務者は、債権者に対し、公平かつ誠実に、権利を行使し、再生手続を遂行する義務を負うことになります(民事再生法38条2項)。

(2)債務の支払いが棚上げとなること

民事再生を申し立てますと、直ちに弁済禁止の保全処分が発令されますので、原則としてすべての債務(商取引債務、金融債務であって、労働債務、公租公課債務は除きます。)について返済が棚上げとなります。会社は一時的にせよ、無借金状態となり、資金繰りが安定します。棚上げされた債務は、後日作成される再生計画に基づいて返済されることになります。また担保権の実行や強制執行等も中止となる場合があります。

(3)裁判所の開始決定によって手続が開始されること

裁判所は、監督委員の意見を聞き、この会社が再建に値しうるかの判断をして、「再建の見込みが全くない」という以外は、原則として開始決定を出します(再生法33条)。

  1. 開始決定の際、債権届出期間とその届けられる債権の調査期間が定められます。
  2. あわせて公認会計士によって財産の残価を調べ直します(財産評定。再生法124条)。

(4)再生計画を作成することが必要となること

会社は、手続期間を通じて、事業の改善方法及び債権者への返済計画を定めた『再生計画』の作成を目指すこととなります。再生計画の類型としては、大きく、①会社の事業を譲渡してその譲渡代金をもって返済する計画を立案する場合(事業譲渡による一括弁済)と②債務者が引き続き事業継続することを前提に、将来の収益をもって分割弁済する方法とがあります。収益弁済の場合の返済期間は原則10年以内との制約があります(再生法155条3項)。

(5)債権者の同意を得る必要があること

債務者が作成した再生計画は、債権者集会による審議の対象となります。債権者集会では、出席者の頭数の過半数、金額にして債権総額の2分の1の賛成を得ることによって可決されます(再生法172条の3)。
ただし、万一、過半数の賛成が得られず、また後日(2ヶ月以内)開かれる債権者集会にて再び賛成が2分の1に達しなかったときは、職権で破産になります。
まさに、会社の運命は、債権者の手に委ねられているといっても過言ではありません。

(6)再生計画の効力

この再生計画が裁判所で認可されますと、確定判決と同一の効力が付与され、万一、会社が再生計画を履行しないときは、直ちに会社財産に対して強制執行等ができる権利、あるいは、再生手続の取消を求める権利が債権者に付与されます。