金融機関の目線を意識した再生計画(数値面以外の検討)

私的整理の再生計画において、金融機関の目線を意識して、計画立案することが大事になります。本稿では数値面以外の検討を行うこととします。なお、数値面の検討については、別の稿で触れることとします。


1 債務者側の目線

債務者側の目線で考えますと、民事再生同様に以下の4点の視点が大事になってくると考えます。これが大事なことは言うまでもありません。

  1. 透明性
    手続は透明性を保つ必要がある。
  2. 衡平性
    債権者は平等に取り扱わなければならない。
  3. 経済合理性
    破産時配当よりも多くなければならない(清算価値保証原則)。
    詐害行為または偏頗行為があった場合には、取消す(戻しておく)必要がある。
  4. 債務者の再生(遂行可能性)
    計画は遂行される計画でなければならない。

2 金融機関側の独自の視点

私的整理の場合には、上記再生の基本理念に加え、金融機関側の視点も加味することが望ましいと言えます。

  1. 債務者区分
  2. 責任論(株主責任、経営責任、保証責任)

3 債務者区分とは

(1)債務者区分の定義の確認

  1. 正常先
    業績が良好であり、かつ財務内容にも特段の問題がないと認められる債務者
  2. 要注意先
      1. 要管理先以外
      2. 金利減免・棚上げを行っているなど貸出条件に問題のある債務者、元本返済もしくは利息支払いが事実上延滞しているなど履行状況に問題がある債務者のほか、業況が低調ないしは不安定な債務者又は財務内容に問題がある債務者など今後の管理に注意を要する債務者

    <li要管理先

  3. 要注意先のうち、当該債務者の債権の全部又は一部が要管理先債権である債務者
    EX:3か月以上延滞又は貸出条件を緩和している債務者
  • 破綻懸念先
    現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、経営改善計画などの進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者(具体的には、現状、事業を継続しているが、実質債務超過の状態に陥っており、業況が著しく低調で貸出金が延滞状態にあるなど元本及び利息の最終の回収について重大な懸念があり、従って損失の発生の可能性が高い状況で、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者をいう。)
  • 実質破綻先
    法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、債権の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者(具体的には、事業を形式的には継続しているが、財務内容において多額の不良資産を内包し、あるいは債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しがない状況、天災、事故、経済情勢の急変等により多大な損失を被り(あるいは、これらに類する事由が生じており)、再建の見通しがない状況で、元金又は利息について実質的に長期間延滞している先をいう。)
  • 破綻先
    法的・形式的な経営破綻の事実が発生している債務者

(2)債務者区分の区分方法

債務者の財務状況、資金繰り、収益力等により、返済能力を判定して、その状況等により債務者を正常先、要注意先(要管理先とそれ以外)、破綻懸念先、実質破綻先及び破綻先に区分することになります。

(3)金融機関にとっての支援のメリット

貸倒引当金の引当率が要注意先から要管理先にダウン、もしくは破綻懸念先にダウンすると引当金の積み増しが必要となるので、それを回避できればメリットがあり、私的整理に応じる理由となります。銀行法上のリスク管理債権、金融再生法上の開示債権により、不良債権を開示しなければならず、不良債権比率を避けたいという動機もありますので、私的整理に応じる理由となります。

4 ランクダウン回避(ランクアップ)のための計画

(1)要管理債権からのアップを目指す方法

金融機関としては、条件緩和債権(要管理債権)に該当させたくないという動機があります。

  1. 実現可能性の高い抜本的な経営再建計画に沿った金融支援の実施により経営再建が実施されている場合には、貸出条件緩和債権に該当しないものと判断して差し支えない。
  2. 具体的に以下のすべての要件を満たす場合(以下の要件を充足する計画を「実抜計画」といいます。)。
    「実現可能性の高い」
    • 計画実現に必要な関係者の同意が得られていること
    • 支援額が確定しており、追加支援が必要ないと見込まれていること
    • 計画中の売上高、費用及び利益の予測等が厳しく見積もられていること

    「抜本的な」

    • 概ね3年で正常化としているが、中小企業については、概ね5年とされている。
    • 「概ね5年後」の債務者区分について、正常先となることに限られず、計画終了後に自助努力によって事業の継続性を確保できれば要注意先であっても良い。
  3. 実抜計画を策定していない場合であっても、1年以内に実抜計画を策定する見込みがある時は、1年間は貸出条件緩和債権に該当しないものと判断して差し支えない。

(2)破綻懸念先からのアップを目指す方法

破綻懸念先を要注意先にランクアップしたい。

以下のすべての要件を満たしている場合には、経営改善計画等が合理的であり、その実現可能性が高いものと判断し、当該債務者は要注意先と判断しても差し支えない(以下の要件を充足する計画を「合実計画」といいます。)。

  1. 計画期間が原則として5年以内で、計画の実現可能性が高いこと(ただし10年以内の場合は売上か妥当及び当期利益が事業計画に比して8割以上確保されていること等)
  2. 計画期間終了後の当該債務者の債務者区分が原則として正常先となる計画であること(ただし、計画期間終了後の当該債務者が金融機関の再建支援を要せず、自助努力により事業の継続性を確保することが可能な状態となる場合は、計画期間終了後の当該債務者の債務者区分が要注意先であっても差し支えない。)
  3. 全ての取引金融機関等において支援を行うことについて合意されていること
  4. 金融機関等の支援の内容が、金利減免、融資残高維持等に止まり、債権放棄、現金贈与などの債務者に対する資金提供を伴うものではないこと

5 数値基準

上記の実抜計画や合実計画を達成するためには、①5年以内の債務超過解消、②3年以内の経常利益黒字化、③計画終了年度(概ね5年後)の債務償還年数10倍以内になるような計画を立案することが大事ということとなります(中小企業再生支援協議会の事業実施基本要領記載の数値基準と同様)。

6 数値基準を満たせない場合

以上の数値基準を満たし、実抜計画、合実計画となるように努力すべきですが、どうしても数値基準を満たせない場合には、次の手法が考えられます。

(1)暫定リスケ

暫定リスケとは、ただちに抜本的な経営改善計画、事業再生計画の策定までに至らない場合に、暫定的な期間に限って認められるリスケジュールのことを言います。暫定リスケによった場合、リスケ期間内に経営改善ができれば良いのですが、そうでなければ最終的な出口をどうするのか、後継者をどうするのかといった経営上の課題が解決されずに残ってしまうという問題があります。

(2)純粋私的整理

金融機関の理解を如何に得るのかが課題です。たとえば第二会社スキームの場合、債権者の全員の同意がない中でどう進めるのか(特に信用保証協会様)、旧会社の整理を如何に図るか(特別清算の場合議決権額の3分の2の同意が必要) という点が課題です。

(3)特定調停スキーム

特定調整スキームを活用することが考えられます。

(4)サービサー活用スキーム(事業再生ファンドスキーム)

既存の銀行借入金をサービサーに集約してもらって、サービサーによる管理・監督のもと、事業再生を目指すスキームです。サービサーは、自らあるいは外部専門家の事業再生ノウハウを活用して債務者企業の事業改善に努めます。事業価値が改善できた場合には、銀行からリファイナンスを受けることによってEXITすることになります。そして、債務者企業はこれによって金融取引の正常化を図ることが可能となります。

(5)スポンサー型スキーム(スポンサー会社に事業譲渡や会社分割を行う)

譲渡対価の決め方、譲渡対象資産負債の切り分け方法、旧経営陣への配慮が必要と言えます。なお、スポンサー型スキームは、再生支援協議会や特定調停スキームで取られることもあります。
公租公課の滞納額が課題であるとか、譲渡しても、一定の配当が出来ない場合には、破産前事業譲渡の検討を行うこともあります。

(6)民事再生

事業価値の毀損が生じないか、予納金等の費用面の手当て、連鎖倒産への配慮が課題ではありますが(一般商取引債権者を保護する検討)、強制力があり、再生手続を迅速かつ強力に進められるという利点(民事再生のメリット)があります。