金融機関の目線を意識した再生計画(数値面の検討)

私的整理の再生計画において、金融機関の目線を意識して、計画立案することが大事になります。本稿では数値面の検討を行うこととし、総額いくら返済するのかという点については、1~4項において検討を進め、返済総額をどのように各債権者に分配するかについては5項にて検討していきたいと思います。なお、数値面以外の検討については、別の稿で触れることにします。

1 清算価値保証原則

民事再生の場合、債権者が、会社が破産した場合よりも多くの債権回収ができること、すなわち債権者にとって経済的合理性があることが必要とされております。このことを清算価値保障原則といいます。私的整理の場合も、当然のことながら、破産した場合よりも多くの債権回収できる計画にすることが必要です。

2 必要とされる債権放棄等の「総額」が合理的に算定されていること

民事再生の場合には、10年間の返済可能額から返済総額を決めることが一般的です。債務免除益により多額の税金が生じないように返済総額を考えることはありますが、会社の事業価値や金融取引の正常化という観点は、計画作成の際にそれほど意識されていないことが多いです。
これに対し、私的整理の場合には、返済期間の上限という概念がありませんので、10年間の返済可能額から返済総額を決めることが一般的とは言えません。むしろ相応に事業価値がある会社の場合には、以下の2点を意識して計画策定を行うことが一般的かなと思います。

  1. 事業価値相当額の支払を行うこと
  2. 金融取引の正常化を意識した金額とすること

①の事業価値相当額の支払いをするということは、会社の事業価値を評価したうえで、これに比して過大である部分を債権放棄の対象(対象事業者の債務負担能力を超える有利子負債を削減する)とし、事業価値相当額の有利子債務は支払うという意味です。具体的には、静態的アプローチ(実態BSに基づくアセットサイドからの債務負担能力)と動態的アプローチ(将来PLの策定によるキャッシュ・フロー・サイドからの債務負担能力)の2つの手法にて算出・検証し、前者(実態BS)の手法によって算出された金融支援額を最大値とし、後者の手法による計算結果(キャッシュ・フロー・サイド)に基づき、より金融支援の内容を軽減できるかという観点で検討をしていくことが一般的と言えます。
これを図で表すと次のとおりです。

債権放棄額総額の検討プロセス

債権放棄額総額の検討プロセス

次に②金融取引の正常化を意識した金額にするというのは、債務者区分のランクアップを意識した計画にするという意味です。金融機関が債務者区分(1-7-3)の見直しを行うにあたっては、債務超過解消年数、利益化、債務償還年数といった要素が考慮されるとされておりますので、これら3点を意識した計画にすることが大事と言えます。例えば、再生支援協議会では再生計画の数値基準が次のとおり準則化されており(再生支援協議会事業実施基本要領6項(5)②以下)、将来的な金融取引の正常化を意識した数値基準を遵守することが求められており(「事業実施基本要領」参照)、事業再生に関与する専門家は必ず押さえておかなければならない重要な指標と言えます。

  1. 実質的に債務超過である場合は、再生計画成立後最初に到来する事業年度開始の日から5年以内を目途に実質的な債務超過を解消する内容とする。
  2. 経常利益が赤字である場合、再生計画成立後最初に到来する事業年度開始の日から概ね3年以内を目途に黒字化する内容とする。
  3. 再生計画の終了年度(原則として実質的債務超過を解消する年度)における有利子負債の対キャッシュ・フロー比率がおおむね10倍以下となる内容とする。

そのほか、保全部分の返済は必ずしなければならないなどの考慮をすることも必要です。

3 スポンサー型のスキームの場合は別に考えること

スポンサー型のスキームであれば、そもそも交渉により決まった金額が事業価値相当額といえますし、将来の金融取引の正常化は関係ない話になりますので、上記議論は必ずしも当てはまりません。破産時配当を上回っているから私的整理に基づく再生計画案に応じる方が合理的であるとか、複数のスポンサー候補と当たっている以上、スポンサー候補会社が提示した金額が時価であるなどと債権者交渉することになります。スポンサーを付けての再生を図る場合には、スポンサー選定手続の公正性を担保することが肝となります。

4 小規模零細事業の場合は別に考えること

年商数千万円など極めて小規模な零細事業の場合でキャッシュフローベースでの事業価値がほとんど認められないケースもあります。このような場合には、民事再生的な発想(債務整理中心の発送)をして、返済可能額から逆算して、返済総額を決めることもあります。小規模事業者で再生計画を立案する場合には、上記数値基準を満たすことが困難なケースもありますので、そのような場合には、特定調停スキームを検討することになります。

5 金融支援で必要とされる債権放棄額が各金融機関に合理的に配分されていること

(1)原則、非保全債権残高プロラタ方式で進めること

債権放棄を求める私的整理においては、返済額の各債権者への按分については、非保全債権残高プロラタ(信用残高按分)方式が一般的と言えます。従前は、いわゆるメイン寄せという金融慣行があったとされておりますが、準則型私的整理の発展に伴い、メイン寄せは緩和されてきているといいます。ここで、非保全債権残高プロラタとありますが、金融機関の債権額のうち担保や保証(信用保証協会等)で保全されていない信用残高(無担保部分の債権額)で返済額等を按分することを言います。


なお、非保全債権の按分と言っても、利息すら支払えていない案件の場合には、元本残高按分で進めるのか、一定の基準日を設け、元本、未収利息、遅延損害金の合計額の按分で進めるのか、事案によって異なる対応をすることが多く、実質的衡平に照らして、すべての債権者の理解が得られる方法を探ることになります。

(2)例外:少額債権部分、その他

債権者平等と言ってももちろん例外もあり、少額債権部分については保全扱いとするケースもあります。この点は、民事再生でも一般に認められている方法と言えますが、私的整理の対象債権者は金融債権者のみのため、民事再生の場合に比べ比較的大きい金額でも少額債権部分として保護されることがありますし、柔軟な対応が可能といえます。例えば、メインバンクが今後の融資などの支援することや返済期間に柔軟に差を設けるなどの検討をすることもあります。総じて民事再生に比べて、債権者間の衡平性はかなり柔軟に対応できることが多いと言えます。