経営者保証に関するガイドラインとは

中小企業の事業再生や廃業(特定調停、法人破産、特別清算)の検討をする際に必ず問題になるのが経営者の保証債務の問題です。経営者にとっては自身の生活や財産はどうなるのか、自宅はどうなるのかという重大な問題になります。近時は経営者保証に関するガイドラインを活用して解決を図るケースが多いため、まずは経営者保証に関するガイドラインの概要について、説明します。

1 経営者保証が早期の事業再生等の妨げになっていたこと

経営者にとって私的整理に着手し、債権放棄の要請を行うということは、自分自身や他の保証人が保証責任の追及を受けるということを意味します。そのような重大な責任を負うとすれば、私的整理を進めることに躊躇することは当然であり、重大な障害になってしまいます。そのため、中小企業の場合、債権放棄を伴う抜本的な私的整理への着手が遅れるといった弊害がありました(加えて、廃業が遅くなり、新陳代謝が進まないという問題もありました)。

そこで、抜本的な事業再生や廃業支援を促進するため、「経営者保証に関するガイドライン」(以下、単に「経営者保証ガイドライン」と言うこともあります。)とそのQA(以下、「経営者保証に関するガイドライン QA」と言います。)が策定・発表され、平成26年2月1日から施行されており、連帯保証債務の整理(債務免除)は従前に比べ比較的受けやすい時代になっています。

2 経営者保証ガイドライン活用のメリット

経営者保証ガイドラインの活用により、破産せずとも、保証債務整理の整理が可能であることが大きなメリットと言えます。債務者にとっては、経営者保証に関するガイドラインを活用して、保証債務の解除を受ける場合、信用情報機関に登録されず、再起が図りやすいというメリットがあります。

債権者である金融機関にとっても、破産よりも多額の債権回収が出来ると言えますし、保証債務整理のモノサシが出来たことで予測可能性が高まったと言えます。さらに言えば、返済不能な保証債務が消えることで債権管理コストが低減するというメリットもあります。

そのほか、経営者保証ガイドラインに沿った通常の対応をしている限り、課税問題が生じない(「経営者保証に関するガイドライン」に基づく保証債務の整理に係る課税関係の整理 )とされていることもメリットと言えるでしょう。

3 経営者保証ガイドラインの概要

経営者保証に関するガイドラインは、①保証契約のあり方や保証契約の見直しという入口論・契約の見直し(4項、5項、6項)と、②主債務者が倒産した局面の保証債務の整理という出口論(7項)の2点について、公正かつ迅速に行うための準則を定めたものであり、その全体像は4項のとおりです。

4 経営者保証に関するガイドラインの債務整理の類型

経営者保証に関するガイドラインを活用して債務整理(7項)を行う場合ですが、主たる債務と同時に保証債務の整理を図る「一体型」と保証債務の整理のみを行う「単独型」の2つがあります。
主たる債務整理が準則型私的整理手続(再生支援協議会や特定調停等)の場合には、一体処理が原則(経営者保証に関するガイドライン7(2))とされていますので、「一体型」が原則型と言えます。通常、「一体型」の方が金融機関に対し、経済的合理性を説明することが多いですし、信頼関係も獲得しやすいので、可能な限り「一体型」の処理を目指すことが望ましいと言えます。

主たる債務者について法的整理(破産、民事再生、特別清算等)を行い、保証債務の整理のみを行う「単独型」の準則型私的整理手続としては、「再生支援協議会」と「特定調停」の2つが存在します。単独型の場合には、主たる債務の整理が別個に進行していますし、金融機関からすれば寝耳に水ということもありますので、一体型の場合以上に信頼関係構築に留意する事が必要です。

なお、インセンティブ資産を残すためには、主たる債務の整理手続前に保証債務整理の手続を開始しなければならないことに留意することが必要です(経営者保証GL7項(3)③)。単独型の特定調停スキームの場合には、一時停止の要請を行うことが大事ですし、単独型の再生支援協議会の場合には、統括責任者の第二次対応通知を主たる債務の整理手続前に得ることが大事になります。