CASE STUDY/ 事例紹介

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事例紹介1 私的整理(再生支援協議会)

売上高年商10億円程度、負債10億円程度

事例1

1 案件概要

東北地方で食品卸売業を経営していた会社である。

(1)窮境の原因及び状況

当社の祖業である漁業事業(遠洋漁業事業)が不採算事業に転落したのちも撤退の経営判断が遅れてしまったため、同部門に関連する赤字が財務内容を悪化させる要因となっていた。同部門に関しては、多額の社会保険料債務が滞留しており、延滞損害金の支払いが資金繰りを圧迫する要因となっていた。
また、加工施設等に多額の設備投資を行ったにもかかわらず、同部門は不採算、撤退を余儀なくされた。
以上の経緯により、結果として、収益力に比して過大、過剰な借入債務が残ることとなった。

(2)当事務所相談時の状況

当事務所に初めて来所した段階では、すでに資金繰りがひっ迫しており、金融機関に対する元本の返済だけでなく、金利の支払いも期日通り履行ができない状況となっていた。また、社会保険料、固定資産税等租税債務も長期間にわたって滞納しており、いつ、強制徴収手続に着手されるか予断を許さない状態となっていた。
当事務所では、バンクミーティングを開催して、会社の窮境状況を金融機関に開示すると同時に、手元の資金繰りの安定化及び滞納社会保険料、税金債務の支払いに充てるために、元利金の返済猶予を申し入れることとなった。
なお、この時点では、経営者は自主再建を希望しており、金融機関に対しては、上記元利金の支払い猶予とあわせて、事業改善のための時間の猶予を申し入れることとなった。
当社からの上記申し入れに対して、金融機関からは、正式な支払猶予の書面の取り交わしを得るには至らなかったが、当社は長年地元の発展に寄与した会社であること、東日本大震災の際にも地元のサプライチェーンの維持に貢献したこと等を評価いただき、事実上、支払の請求を控えていただくという措置をとってもらうことができた。

(3)事業再生に向けた取り組みへの着手

当社は、事業改善に向けて、経営管理体制の見直し、新規受注の獲得に向けた営業努力、不採算化しつつあった小売事業の撤退による本業への経営資源の集約化等の取り組みに着手した。
しかし、食品卸売事業にかかわる外部経営環境が好転しない中で、劇的な収益改善、収支改善をするまでには至らない状態が続いた。ただ、元利金に優先して滞納社会保険料、租税債務の支払いをすることができたことから、滞納残高は徐々に減少しつつあった。

(4)スポンサーへの事業再生支援の申し入れ

当社は経営改善努力を続けてきたものの、なかなか改善の歩みを加速させることができない状況にあった。加えて、中長期的な経営課題として、経営者の親族、社内従業員の中に後継者候補が不在という問題を抱えていたことから、主要仕入先であった会社に対して、スポンサーとしての事業再生支援を要請するに至った。

(5)再生支援協議会での金融調整について

当社は、スポンサー候補先からの正式な意向表明を受けたことを踏まえて、事前に金融機関に相談の上、県の中小企業再生支援協議会手続の利用を申請した。再生支援協議会では、財務DD等一連の調査を実施したうえで、スポンサー型の事業再生計画、すなわち、①当社事業は事業譲渡の実行によってスポンサーが引き受ける、②金融機関は、スポンサーからの事業譲渡対価に加え、残余財産(事業譲渡の対象とならなかった資産)を換価したことで得た金額をもって配当原資とする、③事業譲渡及び残余財産の換価後、当社は特別清算手続をもって清算するとの内容の事業再生計画を策定するに至った。本事業再生計画に基づく金融機関の回収見込み額は、当社が破産清算した場合の予想配当率を上回るものであった。
協議会で策定された上記事業再生計画を金融機関に諮ったところ、全行から同意を得ることができた。

(6)クロージング

当社は、事業再生計画に基づいてスポンサーに事業譲渡を実行した。これによって、当社の事業及び当社従業員は、スポンサーが承継したうえで、スポンサーの経営資源、ノウハウのもと、事業再生を実現することができた。また、スポンサーが事業を引き受けたことで、当社の事業承継問題も解決することができた。
金融機関は、本事業再生計画の遂行によって破産を上回る債権回収を実現するとともに、事業が引き続き存続することにより、取引先の保護、雇用の確保という形で地域へ貢献することができた。
経営者は、顧問的立場に就くことで、引き続き、当社事業に関与している。同人は、金融機関からの借入の保証人となっていたが、本私的整理は、準則型私的整理手続である協議会スキームで実施されたことから、経営者保証ガイドラインに基づき、保証債務整理も実現することができた。

2 事業再生及び経営者保証ガイドラインの活用が奏功したポイント

  • 創業期から地元の経済、社会への貢献の実績があったこと
  • 東日本大震災等未曾有の危機の中で、採算度外視で安全・安心な食の確保に向けて積極的に取り組むなど、企業の社会的責任を積極的に果たしてきたこと
  • 社会保険料、税金等の滞納問題を解決できるめどがついたこと
  • 再生支援協議会を活用して、透明性、公正性、衡平性の確保に努めたこと
  • 金融機関債権者との間で良好な関係を構築することができたこと
  • スポンサーへの事業譲渡について、経営者が早期に決断することができたこと

事例紹介2 私的整理(再生支援協議会)

売上高年商30億円程度、負債数十億円、関連会社あり、多額の粉飾その他様々問題行為あり

事例2

1 案件概要

関連会社複数抱えている中堅企業であった。公共的な受注をしており、社会的意義のある業務を担っていた。
しかしながら、従前の経営者により多額の粉飾を行っており、金融機関の有利子債務(数十億円)が簿外処理となっていた。収益性も悪化しており、資金繰りがひっ迫し、幹部社員の給与は2か月遅滞している状態だった。
その後、幹部社員数名により事業改善に取り組み、また、コンサルタント会社が入り、事業再生(リ・スケジュール)に着手することとなったが、一時停止(返済猶予)時期が区々になってしまう問題があった(金融機関ごとに残高維持の要請=支払停止の要請時期がバラバラということです。)。加えて、途中で前社長の問題行為が発覚し、さらに簿外債務を負担することとなった。
そのため、当事務所弁護士が関与し(他の事務所の弁護士との共同受任)、個別訪問し、抜本処理を伴う再生計画を立案することについて、金融機関の理解が得られるよう動くことになった。その後、バンクミーティングを開催し、全金融機関に元利金の返済を猶予してしてもらう要請を行うこととなった(ただし、金融機関への誠意として、0%台の暫定金利という名目の支払を行うこととした。)。金融機関とも協議の上、再生支援協議会の支援を受けて、事業再生を目指すこととなった。

許認可・登録の問題があり、早期に債務超過を解消しなければならない案件であった。また、多額の粉飾や前社長の問題行為等もあったため、スポンサー型の支援が不可欠と考える金融機関もあったため、FAを選定し、スポンサー選定も行ったが、現経営陣の事業改善の取り組みが奏功しつつあったことから、自主再建の方が債権者にとっても経済合理性が高いという事情もあり、自主再建のために経営改善に努めることとなった。

計画策定においては、複数の会社を合併し、複数の会社の金融機関への有利子債務を平等に按分して弁済するパーレート方式による計画(第二会社方式による実質債権放棄)を立案した。最終的に一部金融機関(当該会社からは遠方の金融機関)がバンクミーティングにも参加してくれず、さらには、計画にも同意しないという姿勢であったが、サービサーを活用し、当該金融機関の債権を買い取ってもらうこととし、最終的に全金融機関の同意を得ることとなった。

その後、複数の会社は同日付で合併と会社分割を実施し、旧会社は特別清算により債権放棄を受け、新会社は収益力のある会社として現在も堅調な業績を誇っている。

2 事業再生が奏功したポイント

  • 新たな経営陣が誠実であったこと
  • 不採算店舗の閉鎖、経費削減など新経営陣による事業改善(コンサルタント会社の指導も含め)が奏功し、相応に収益力の改善が働いたこと
  • 得意先及び従業員の理解と協力が得られたこと
  • いくつかの金融機関が早い段階で事業再生することに協力的な姿勢を示してくれたこと
  • 事業の社会的価値や緊急性があり、金融機関の理解を得られたこと
  • 預金避難の実施や暫定金利(約定金利すら支払えない状態)に対して多くの金融機関が前向きな姿勢を示してくれたこと
  • 前社長の問題行為があったものの、これにより生じた債務を支払うことについて全金融機関(信用保証協会等の公的機関を含む)が理解を示してくれたこと
  • 前経営者の経営責任をしっかりとるとともに、関連会社の経営者(経営責任は重くない方)については、任意の保証債務の解除が認められたこと
  • 事業再生の知見のあるコンサルティング会社及び監査法人(再生支援協議会選定)に入ってもらえたこと
  • FAを選定するほか、再生支援協議会に支援してもらい、透明性、公正性、衡平性の確保に努めたこと

事例紹介3 私的整理(特定調停)

売上高年商7000万円程度、負債は遅延損害金を含めると1億円以上、家族経営

事例3

1 案件概要

ほぼ家族経営で年商7000万円程度の酒蔵(酒造メーカー)であった。酒造りには定評があり、各種品評会でも受賞歴を有していた。
しかしながら、現経営者が代表者に就任する前に生じた金融機関の有利子債務の期限の利益がなくなっており、信用保証協会に代位弁済されている状態となっていた(最大債権者は地元の信用保証協会)。その他の債務もサービサーに売却されている状態であった。資金繰りもひっ迫している状態であり、酒造りの仕入にも事欠く状態であった。
そのため、当事務所弁護士が関与し、バンクミーティングを開催し、抜本処理を伴う再生計画を立案することとなり、まずは金融機関に個別訪問を実施した。その後、バンクミーティングを開催し、全金融機関に元利金の返済を猶予してしてもらう要請を行うこととなった。その後、金融機関とも協議の上、震災支援機構の支援を受けられるべく動くものの、支援銀行が不在のため、特定調停スキームを活用し、事業再生を目指すこととなった。なお、事業規模も小さく、家族経営のため、当初からスポンサー型の事業再生は目指しておらず、自主再建を目指していた。
最大債権者の信用保証協会と何度か協議を重ね、再生計画を立案することとした。再生スキームはいわゆる第二会社方式を採用することとした。酒造免許の承継のため、税務署とも協議を重ね、新会社に酒造免許の承継が得られるよう努めた。なお、サービサーは、バンクミーティングにも出席せず、当社再建には積極的ではなかったものの、再生計画に積極的に反対するものではないとして、消極同意(積極反対の意思表示はしない)という約束をしてくれた。最終的には、当該スポンサーはいわゆる17条決定により解決を図り、その他の金融機関は全行同意となり、調停は無事成立した。
その後、会社分割を実施し、旧会社は特別清算により債権放棄を受け、新会社は現在も酒蔵として生き残っている。認定支援機関による毎年2回のモニタリングを実施している。再生計画策定及びモニタリング支援には、補助金が出されており、専門家費用の一部として、会社の資金繰りの一助となっている。

2 事業再生が奏功したポイント

  • 新経営陣の作る酒の品質が高く、社長の妻の営業力・行動力が金融機関や税務署にも評価されたこと
  • 信用保証協会が早い段階で事業再生することに協力的な姿勢を示してくれたこと
  • 特定調停スキームという公的機関を活用することで金融機関の理解が得やすかったこと
  • 設備の状況、製造能力、販売能力、管理力などの事業面の実態を出来る限り説明したこと
  • 保証人については、途中で1名が死亡し、全員相続放棄により相続関係が面倒になるところ、相続財産管理人への就任を約束したこと
  • モニタリングの実施や保有不動産への担保設定の約束など返済の確実性についても正確に説明したこと

3 参考文献

社長・税理士・弁護士のための私的再建の手引き 第2版』宮原一東・徳永信・安田憲生・岡本成道/著(税務経理協会2016年)に上記事案がより詳しく掲載されています。

事例紹介4 法的整理(民事再生)

売上高年商20億円程度、負債は40億円程度の製造業で本社工場及び在庫に担保設定されていたが、スポンサーへの計画外事業譲渡の実行によって事業再生できた事例

事例4

1 案件概要

(1)窮境の原因、民事再生に至る経緯

製造用機械の部品を製造・供給している会社である。
売上が好調であった平成18年から平成19年にかけて、新工場の建設、新規機械の導入等の多額の設備投資をしたが、その直後にいわゆるリーマンショックによって半導体業界が冷え込んだことから、設備投資に見合った収益を得る機会を得ることができなかった。
その後、地元の中小企業再生支援協議会でいわゆる暫定計画を策定、元本の返済猶予を受けていたが、多額の借入金の金利負担が重く、資金は次第に逼迫していった。
一方、当社は、国内のメイン得意先との取引が打ち切られたことから、国外の大手IT企業との取引を開始したものの、当社財務内容に不安があったことなどを理由として、直接取引ではなく商事会社経由取引を求められた。これにより、口銭負担が生じたことから、さらに収益・収支は悪化していった。
そうした中、資金繰りは利払いを維持することさえ不可能な状態に陥っており、社会保険等も多額に滞納している状態であった。その後、商取引債務の支払いにも窮することになったことから、私的整理による事業再生を断念して、民事再生手続下での事業再生を目指すに至った。

(2)予納金なしでの申立て

当社の資金繰りは非常に厳しく、申立のための弁護士費用はおろか予納金すら準備できない状況であった。その際に、スポンサー候補と目されていた会社が予納金相当額を融資してくれることとなっていたので、裁判所と協議の上、予納金なしで申立てを行い、申立後速やかに監督委員の同意を得て融資を受け、さらに共益債権化の承認申請を行い、予納金を納めることとした。

(3)スポンサー選定

前述のとおり、スポンサー候補はいたものの、申立後、数日後にやはり支援はできないとの回答であった。そのため、スポンサーなしでの民事再生状態に陥ってしまった。当社の最大の得意先は国外大手IT企業であり、当社の再生可能性は、同社との取引が今後も維持することができるかどうかという点に委ねられていた。当社の再生可能性の判断には、今後も引き続き、国外大手IT会社との事業を継続することができるかどうかが重要な要素となっていた。また、収支がきわめて逼迫していたことから、いわゆるDIP(ディップ)ファイナンスも必要な状況であった。そこで、スポンサーは不可欠の状態であった。
国外大手IT企業との商権を構築できる見込みがあること及びDIPファイナンスに応じてもらえることを条件として、スポンサーの選定を進めることとなった。前述のとおり、当社は民事再生の申立後に、スポンサー候補が不在となってしまったため、改めてスポンサーを募集することとなったが、スポンサー候補先のうちの一社は、十分な資金力があることに加え、当社得意先の国外大手IT企業とも取引を行っており、十分な信用補完が期待できると考えた。
そこで、最終的に、同社をスポンサーとして選定したうえで、同社に対して計画外事業譲渡を進めるべきとの判断に至った。

(3)別除権交渉について

当社の事業性資産のうち本社工場及び製品在庫に対して、金融機関の担保権(別除権)が設定されていた。そのため、スポンサー候補先へ事業譲渡を実行するためには、関係する金融機関との間で協議、理解を得ることは必要不可欠な状態であった。

ア 不動産担保権の取り扱いについて

当社は、民事再生申立て後、速やかに本社工場の不動産鑑定を実施した。しかしながら、そこで得られた評価額と、別除権者である金融機関が取得していた金額との間では金額のかい離が大きかったことから、別除権者からは、このままだと別除権受戻協定の締結は難しいとの指摘があった。
そこで、別除権者の理解のもと、裁判所に対して担保権消滅許可申立ての制度を活用することとした。担保権消滅許可申立制度は、再生債務者が適正と考える金額で別除権の担保抹消を求めることができる手続であるが、当該金額に納得ができない別除権者は価額決定請求を行うことができる。価額決定とは、裁判所が選定した評価人に別除権の評価を委ねる制度である。
この担保権消滅許可の申立てに先立ち、相手先との間では、価額決定請求で示された評価額をもって別除権合意額とする旨をあらかじめ合意ができていた。そのため、裁判所から示された評価額に基づき、円滑に別除権協定を締結することができた。

イ 在庫担保権の取り扱いについて

当社は、金融機関の1社に対して、原材料・製品在庫を担保に供する内容の契約を締結していた。
手続開始後、双方が在庫等の評価調査を実施したうえで別除権の評価についての交渉を開始した。当社が取り扱っていた商材は特殊な材料を使用した消耗品であったことから、万一、当社が破たんした場合には転売可能性がほとんどないという特徴があった。そのことを相手先金融機関に対して粘り強く説得を続けた結果、簿価から大幅に減額した金額で別除権協定を締結することができた。

ウ リース契約について

当社の製造設備の大部分には、リース契約ないし再リース契約が設定されていた。そこで、各リース、再リースの相手先との間で、別除権協定の締結交渉が必要となった。具体的には、それぞれの物件の評価を算定して、該当するリース権者との間で物件の買取り金額について協議を進めた。
最終的には、他の別除権と同様、スポンサーからの事業譲渡対価の中からリース物件の買取り代金を支払うことと引き換えに、リース物件の所有権を移転してもらうとの内容で別除権協定の締結に応じてもらった。

(4)計画外事業譲渡の実行

当社は、スポンサーとの間で最終的な事業譲渡条件を交渉したうえで、計画外事業譲渡の手続を実行することとした。当社代理人弁護士側では、あらかじめ主力債権者である金融機関に対してバンクミーティングを開催する等の手法で情報を開示していたこともあり、スポンサーの選定経緯及び事業譲渡対価等に対して特に異論が出ることはなかった。

(5)再生計画の成立〜その後

当社再生計画は清算型の再生計画となった。別除権付物件の移転コストが多額にのぼったこと、滞納していた公租公課債務が多額に至っており、最優先で返済する必要があったこと等から、必ずしも再生債権者にとって有利な配当率を示すことはできなかった。
もっとも、当社事業が存続することによって取引先債権者は今後も当社との取引が維持できる等のメリットがあることを説明して、債権者の同意を最大限得られるよう取り組んだ。その結果として、配当率は2パーセント台とかなり低廉であったにもかかわらず、金融機関の全行同意を含めて90%を上回る同意を得ることができた。

2 事業再生が奏功したポイント

  • 裁判所が予納金なしで申立てを受理してくれたこと
  • 申立後、速やかに融資(DIPファイナンス)を受けることが出来たこと
  • 早期にスポンサーが決定できたこと
  • 別除権者である金融機関との間で信頼関係を構築することができたこと
  • リース会社も最終的には協力してくれ、別除権協定を締結できたこと
  • 民事再生申立て直後に公租公課庁と連絡を取って、公租公課の滞納処分を控えてもらうことについて理解を得られたこと
  • DIPファイナンスを受けることができたこと
  • シナジー効果を最大限に発揮できるスポンサーが現れたこと

事例紹介5 法的整理(民事再生)

売上高年商16億円程度、負債は10億円以上、少額弁済許可により取引先への支払を実現

事例5

1 案件概要

インターネットの検索で集客を図る修理事業であった。サービスには定評があり、本業自体は大幅に黒字であった。
しかしながら、当該修理事業は、将来シュリンクすることが見込まれており、前経営者は、飲食事業に乗り出していた。ところが、当該飲食事業がいずれも不採算であり、これにより資金繰りが非常に厳しい状態が続いており、一般業者への支払もできない状態に陥っていた。
そのため、当初は、別の法律事務所の弁護士が代理人となり、事業再生に着手したが、一般業者を含め、全債権者に受任通知を送付し、事業自体が混乱し、従業員が離散するなど、すでに信用悪化が進んでおり、事業価値が日々毀損している状態に陥っていた。その後、当事務所弁護士が代理人に就任し、資金繰りまで細かく確認し、本業の修理事業が入居していたビル(ハイスペックのため、賃料も高額であった。)からの撤退、赤字の続く飲食事業の廃止を断行し、事業再生を目指すこととした。すでに一般業者への支払を滞納し、信用不安が生じていたこと、賃貸借契約などの取引関係を抜本的に処理するためには、民事再生の申立てが合理的と判断し、民事再生の申立てを決断した。なお、不採算の飲食事業については、赤字垂れ流しを回避するため、スポンサー候補への事業譲渡を目指すこととした。
民事再生手続申立後、最初の課題は、集客の維持であった。集客事態をインターネットで行っていたが、検索エンジンの会社への支払が出来なくなると、検索エンジンの利用が出来なくなり、集客が出来なくなるという問題があった。そこで、民事再生法85条5項後段を利用して、少額弁済の許可を得て、検索エンジンの継続利用が実現できた。金融機関が当該業者への支払に理解を示してくれたことも裁判所が許可してくれた一因であった。
次なる課題は、修理事業の入る高額の賃料の生じるビルからの撤退であった。まずは撤退後の新たな賃借物件探しが重要であるが、民事再生会社に賃貸してくれる先を探すことは容易ではなかったが、経営陣等の熱意により、何とか新たなビルを探すことも出来た。従前のビルの賃料は到底支払う体力すらない状態であり、賃貸借契約解除後の賃料相当損害金倍額条項や高額の違約金などの契約となっていたため、賃貸人側の弁護士との交渉は厳しいものとなったが、事業再生の意義等を理解してもらい、当社側が一定額を支払う内容での和解が成立した。なお、飲食事業については、スポンサー候補は複数いたものの、最終的には賃貸人の理解が得られないなどの理由でスポンサー候補への事業譲渡は実行できなかった。飲食店の賃貸人の弁護士とも原状回復工事費用の支払いなど厳しい交渉となったものの、最終的には返済可能な一定額を支払う内容で交渉が成立した。
さらに、資金繰りも厳しい状態であったが、民事再生後の会社にDIPファイナンスしてくれる銀行を見つけ、融資を受けることが出来た。DIPファイナンスは、運転資金のための融資が一般的であるが、本件の場合には、ビルの撤退など事業再構築のためにも使うことが予定されており、その意味では珍しい事案であった。
その後、自主再建型の再生計画を立案し、ほぼすべての債権者の同意を得て、再生計画は認可された。会社は現在も堅調な業績を上げており、再生計画で約束した支払については、リファイナンスや手元資金により、一括弁済し、再生手続は終了している。

2 事業再生が奏功したポイント

  • 民事再生後も検索エンジン会社への支払が出来たこと
  • 一般消費者向けのビジネスであったため、民事再生の影響がほとんどなかったこと
  • 資金繰りを精査し、賃料の支払いを延滞するなどして資金を作ったほか、DIPファイナンスを受けることが出来たこと
  • 賃貸人代理人のもとに足しげく通う交渉を行い、理解が得られたこと
  • 修理事業の新たな移転先を見つけることが出来たこと
  • 民事再生手続の法的効力(民事再生法49条により、契約解除ができる。)により、比較的有利な条件で、不採算事業の飲食店を閉鎖できたこと
  • 従業員の離散を防ぐことが出来たこと

事例紹介6 法的整理(民事再生)

売上高年商4億円程度、負債は7億円程度、不渡り後でもあり、売掛金や在庫に担保設定されていたが、事業再生できた事例

事例6

1 案件概要

とある地方の製造工場であった。品質には定評があり、表彰も受けていた。また、従業員も相応に抱えており、地域経済への貢献をしている会社であった。
しかしながら、全国各地に営業所の拠点を出すことで、その固定経費の負担が重くのしかかることとなっていった。また、古参社員が離職し、生産効率の低下により、納期を守ることが出来なくなるとか、操業停止等により、窮境に陥り、地元の再生支援協議会の支援を受けて、経営改善計画を立案するに至っていた。
しかし、その後も、一部受注により赤字となったほか、赤字状態の改善が止まらず、運転資金をメインバンクから借りるほか、ノンバンクから売掛金を譲渡担保に借入を行うとか、公租公課(社会保険料等)を滞納するなどしたが、それ限界に達し、数日後に手形不渡り必至の状態となり、当事務所弁護士に相談が来ることとなった。
事務所弁護士は、一度事務所で打ち合わせし、資金繰りがひっ迫しており、不渡り必至である以上、民事再生以外の再生は出来ないものと判断した。たまたま連休を挟んでいたので、連休の間に、当事務所弁護士が会社を訪問し、社長や幹部とともに事業改善プランを検討し、大幅な固定費削減による事業再生を目指すとともに、資金繰りも細かく確認した。製造業であり、製品の安定供給のためには、スポンサーによる支援を受けることが出来れば合理的と考え、スポンサー選定も目指すプランを練ることとした。
民事再生手続申立後、最初に実施したのは、売掛金に担保設定しているノンバンクとの交渉であった。ノンバンクが売掛先に債権譲渡通知を出せば、それにより当社の売掛金全額は回収されてしまい、当社は資金不足により、倒産してしまうからである。当事務所弁護士は、ノンバンクを訪れ、資金繰り計画を示し、分割弁済により、ノンバンクへの満額支払は実現できることを丁寧に説明し、何とか理解を得て、最初の課題を解決することが出来た。
メインバンクは再生支援協議会で支援を表明し、毎月、運転資金融資をしていたにもかかわらず、突如として、資金を焦げ付かせ、不渡りを起こすと言われたため、怒りの感情を持っていたそうである。メインバンクの担当は、(その時は連休直前であったが)「今から民事再生を申立てしても、間に合うはずがない。そんなに急いで対応できる弁護士はいない。」とのことであったが、連休中に民事再生の申立準備を行い、連休明けすぐに民事再生手続を申し立てた。民事再生手続申立後、当事務所弁護士と社長で訪問するものの、しばらくは面会謝絶状態であった。会社が迷惑をかけたことは誠実に詫びるべきであることから、当事務所弁護士のチェックのもと、社長に謝罪文を作成してもらい、当該金融機関に渡してもらうこととした。当該メインバンクは、幸い、債権者説明会にも出席してくれ、その後、メインバンク担当者と折衝を重ねる中で信頼関係を構築していった。在庫にも担保設定を受けていたが、担保実行されることなく、別除権協定(和解)を締結することが出来た。
リース会社も10社あり、当該地域ではリース債権は共益債権であるなどの主張も受けたが、別除権付き再生債権であり、担保価値相当額しか支払えないなどと交渉を行い、全債権者と別除権協定を締結できた。
続けて、不採算の営業所の廃止に着手した。従業員を解雇し、賃貸借契約も民事再生法49条に基づいて解除していった。さらに、従業員が不安に陥っていたことから、ほぼすべての社員と面談し、会社への不満や問題点を聞き取っていった。
民事再生後も引き続き、資金繰りが厳しい状態が続いていたため、公租公課の滞納解消は容易には実現できなかった。公租公課庁には弁護士も同席し、一定程度待ってもらう様交渉していった。さらに、民事再生後に融資してくれる金融機関に融資(DIPファイナンス)を依頼し、融資を受けることが出来た。民事再生会社に融資が出たという情報は、仕入先・得意先の信用回復効果もあり、大きな意味があった。
その後、複数のスポンサー候補と交渉し、最終的に一部上場企業の子会社への計画外事業譲渡を実施した。事業譲渡後、清算型の再生計画を立案し、ほぼすべての債権者の同意を得て、再生計画は認可された。社長は、スポンサーが設立した新会社でも社長に就任し、現場を指揮しており、新会社は現在も堅調な業績を上げて、スポンサーからの事業譲渡対価等により、再生手続は無事終了した。

2 事業再生が奏功したポイント

  • ノンバンクの理解を得られ、譲渡担保の実行通知を受けなかったこと
  • メインバンクの理解を得られ、在庫担保の実行を受けなかったほか、再生手続に協力してくれたこと
  • リース会社も最終的には協力してくれ、別除権協定を締結出来たこと
  • DIPファイナンスを受けることが出来たこと
  • 従業員の離散を防ぐことが出来たこと

事例紹介7 経営者保証に関するガイドライン(特定調停)

主債務者自己破産、保証人の負債総額970万円、全債権者17条決定により整理

1 案件概要

主債務者は、代表者甲により、個人事業として出発した役務提供型の極めて小規模な事業体であった。その後、法人化し、役務提供型の事業を行い、地元の銀行より、約850万円の借入を受けていた(全額について、地元の信用保証協会が保証していた。)。代表取締役社長は、上記借入金の債務全額について連帯保証していた。甲社長は、自身の個人的借入金として、信販会社2社に合計約120万円の債務を負っていた(甲社長の債務額は、合計3社に約970万円)。

(1)主たる債務者の整理

主たる債務者は、事業継続が困難であり、再生も困難であったため、事業譲渡実行後、直ちに破産手続を申し立てた。

(2)保証人の債務整理

ア 財産調査

財産状況を確認したところ、以下のとおりであり、破産時でも全額残すことができる自由財産しか保有していないことが確認された。

  • 現預金は20万円未満
  • 自宅はオーバーローン(ただし、売却予定)
  • 小規模企業共済210万円(差押禁止財産=自由財産)
イ 債権者との協議・交渉状況

一時停止等の通知発送後、遠方でもあったので、以下のとおり、主に電話や書面での交渉を行うこととして、経営者保証ガイドラインの趣旨要件などを説明した。また、代表者には直接訪問してもらい、代表者の現在及び将来の生活状況の説明をしてもらった。信用保証協会担当者は、当初は、下記のとおり、破産でよいのではないかとか、分割弁済してもらいたいなどと言っていたが、下記のとおり、説明したところ、経営者保証ガイドラインの利用は吝かではなく、特定調停の申立自体には異論ないとのことであった。
また、個人的借入金のカード会社は経営者保証ガイドラインの利用には反対ではないものの、特定調停のために出頭することまでは出来かねるとの回答であった。

  保証人の意向 債権者の考え
GL利用 GL利用したい。 破産でよいのでは(注)
今後の収入に基づく分割弁済 弁済原資にならない (GLQA29)。 破産しないなら、毎月支払ってもらいたい。
現預金20万円
小規模企業共済
保有したい。 特段意見なし
ウ 申立て

当事務所弁護士は、地方裁判所本庁に併置された簡易裁判所に申立することとした。自由財産しか財産がないため、弁済額0円とすることも考えられなくはないが、誠意を示すべく、10万円の弁済計画を立案した。申立書及び添付資料は、手引きを参考とし、申立書等は1通で申し立てた。印紙代は、算定不能とし、6500円を納付することとした。

エ 調停でのやり取り

信用保証協会に代理人が就任し、小規模企業共済(差押禁止財産)の弁済を求めてきて、弁済しないことは不誠実ではないかとの主張を展開してきた。当事務所弁護士は、破産手続でも自由財産である差押禁止財産は残すことが出来るものであると主張し、調停は平行線で終わった。

オ 期日間の調査

当事務所弁護士は、自由財産を残存資産として残し、弁済対象にしないことのみをもって「弁済について誠実」ではないと解釈することは困難か否か照会を行ったところ、事務局より困難と考える旨の回答を受ける(現在の経営者保証GLQA3-4参照)。
さらに、調停委員会が調停条項案を提示する場合には、「当該調停条項案は、特定債務者の経済的再生に資するとの観点から公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容のものでなければならない」(特定調停法15条)。「公正」とは公平でかつ、法令に反しないこと、「妥当」とは債務者の経済的再生のために適切な、相応しい内容の藻であることを指すことなどを指摘した書面を作成し、提出することとした。

カ 調停成立

最終的には、全債権者と17条決定により調停が成立した。裁判所の出した案は、弁済額を20万円とするという内容だった。

2 経営者保証ガイドラインに基づく整理が奏功したポイント

  • 社長(保証人)が誠実であったこと、今後の生活状況等の説明、謝罪文を出した。
  • 経営者保証ガイドラインの要件の解釈について、十分な調査を行うとともに、丁寧に説明を行った。
  • 調停委員が中立・公正な第三者の立場で説得してくれた。

3 参考文献

事業再生と債権管理155号「主債務者を事業譲渡後、破産手続により整理し、保証人は、特定調停を申し立て、経営者保証ガイドラインに基づき、保証債務に加え、個人的借入金債務も取り込んで、いわゆる17条決定により同時に整理した事例」