売上高年商20億円程度、負債は40億円程度の製造業で本社工場及び在庫に担保設定されていたが、スポンサーへの計画外事業譲渡の実行によって事業再生できた事例
1 案件概要
(1)窮境の原因、民事再生に至る経緯
製造用機械の部品を製造・供給している会社である。
売上が好調であった平成18年から平成19年にかけて、新工場の建設、新規機械の導入等の多額の設備投資をしたが、その直後にいわゆるリーマンショックによって半導体業界が冷え込んだことから、設備投資に見合った収益を得る機会を得ることができなかった。
その後、地元の中小企業再生支援協議会でいわゆる暫定計画を策定、元本の返済猶予を受けていたが、多額の借入金の金利負担が重く、資金は次第に逼迫していった。
一方、当社は、国内のメイン得意先との取引が打ち切られたことから、国外の大手IT企業との取引を開始したものの、当社財務内容に不安があったことなどを理由として、直接取引ではなく商事会社経由取引を求められた。これにより、口銭負担が生じたことから、さらに収益・収支は悪化していった。
そうした中、資金繰りは利払いを維持することさえ不可能な状態に陥っており、社会保険等も多額に滞納している状態であった。その後、商取引債務の支払いにも窮することになったことから、私的整理による事業再生を断念して、民事再生手続下での事業再生を目指すに至った。
(2)予納金なしでの申立て
当社の資金繰りは非常に厳しく、申立のための弁護士費用はおろか予納金すら準備できない状況であった。その際に、スポンサー候補と目されていた会社が予納金相当額を融資してくれることとなっていたので、裁判所と協議の上、予納金なしで申立てを行い、申立後速やかに監督委員の同意を得て融資を受け、さらに共益債権化の承認申請を行い、予納金を納めることとした。
(3)スポンサー選定
前述のとおり、スポンサー候補はいたものの、申立後、数日後にやはり支援はできないとの回答であった。そのため、スポンサーなしでの民事再生状態に陥ってしまった。当社の最大の得意先は国外大手IT企業であり、当社の再生可能性は、同社との取引が今後も維持することができるかどうかという点に委ねられていた。当社の再生可能性の判断には、今後も引き続き、国外大手IT会社との事業を継続することができるかどうかが重要な要素となっていた。また、収支がきわめて逼迫していたことから、いわゆるDIP(ディップ)ファイナンスも必要な状況であった。そこで、スポンサーは不可欠の状態であった。
国外大手IT企業との商権を構築できる見込みがあること及びDIPファイナンスに応じてもらえることを条件として、スポンサーの選定を進めることとなった。前述のとおり、当社は民事再生の申立後に、スポンサー候補が不在となってしまったため、改めてスポンサーを募集することとなったが、スポンサー候補先のうちの一社は、十分な資金力があることに加え、当社得意先の国外大手IT企業とも取引を行っており、十分な信用補完が期待できると考えた。
そこで、最終的に、同社をスポンサーとして選定したうえで、同社に対して計画外事業譲渡を進めるべきとの判断に至った。
(3)別除権交渉について
当社の事業性資産のうち本社工場及び製品在庫に対して、金融機関の担保権(別除権)が設定されていた。そのため、スポンサー候補先へ事業譲渡を実行するためには、関係する金融機関との間で協議、理解を得ることは必要不可欠な状態であった。
ア 不動産担保権の取り扱いについて
当社は、民事再生申立て後、速やかに本社工場の不動産鑑定を実施した。しかしながら、そこで得られた評価額と、別除権者である金融機関が取得していた金額との間では金額のかい離が大きかったことから、別除権者からは、このままだと別除権受戻協定の締結は難しいとの指摘があった。
そこで、別除権者の理解のもと、裁判所に対して担保権消滅許可申立ての制度を活用することとした。担保権消滅許可申立制度は、再生債務者が適正と考える金額で別除権の担保抹消を求めることができる手続であるが、当該金額に納得ができない別除権者は価額決定請求を行うことができる。価額決定とは、裁判所が選定した評価人に別除権の評価を委ねる制度である。
この担保権消滅許可の申立てに先立ち、相手先との間では、価額決定請求で示された評価額をもって別除権合意額とする旨をあらかじめ合意ができていた。そのため、裁判所から示された評価額に基づき、円滑に別除権協定を締結することができた。
イ 在庫担保権の取り扱いについて
当社は、金融機関の1社に対して、原材料・製品在庫を担保に供する内容の契約を締結していた。
手続開始後、双方が在庫等の評価調査を実施したうえで別除権の評価についての交渉を開始した。当社が取り扱っていた商材は特殊な材料を使用した消耗品であったことから、万一、当社が破たんした場合には転売可能性がほとんどないという特徴があった。そのことを相手先金融機関に対して粘り強く説得を続けた結果、簿価から大幅に減額した金額で別除権協定を締結することができた。
ウ リース契約について
当社の製造設備の大部分には、リース契約ないし再リース契約が設定されていた。そこで、各リース、再リースの相手先との間で、別除権協定の締結交渉が必要となった。具体的には、それぞれの物件の評価を算定して、該当するリース権者との間で物件の買取り金額について協議を進めた。
最終的には、他の別除権と同様、スポンサーからの事業譲渡対価の中からリース物件の買取り代金を支払うことと引き換えに、リース物件の所有権を移転してもらうとの内容で別除権協定の締結に応じてもらった。
(4)計画外事業譲渡の実行
当社は、スポンサーとの間で最終的な事業譲渡条件を交渉したうえで、計画外事業譲渡の手続を実行することとした。当社代理人弁護士側では、あらかじめ主力債権者である金融機関に対してバンクミーティングを開催する等の手法で情報を開示していたこともあり、スポンサーの選定経緯及び事業譲渡対価等に対して特に異論が出ることはなかった。
(5)再生計画の成立〜その後
当社再生計画は清算型の再生計画となった。別除権付物件の移転コストが多額にのぼったこと、滞納していた公租公課債務が多額に至っており、最優先で返済する必要があったこと等から、必ずしも再生債権者にとって有利な配当率を示すことはできなかった。
もっとも、当社事業が存続することによって取引先債権者は今後も当社との取引が維持できる等のメリットがあることを説明して、債権者の同意を最大限得られるよう取り組んだ。その結果として、配当率は2パーセント台とかなり低廉であったにもかかわらず、金融機関の全行同意を含めて90%を上回る同意を得ることができた。
2 事業再生が奏功したポイント
- 裁判所が予納金なしで申立てを受理してくれたこと
- 申立後、速やかに融資(DIPファイナンス)を受けることが出来たこと
- 早期にスポンサーが決定できたこと
- 別除権者である金融機関との間で信頼関係を構築することができたこと
- リース会社も最終的には協力してくれ、別除権協定を締結できたこと
- 民事再生申立て直後に公租公課庁と連絡を取って、公租公課の滞納処分を控えてもらうことについて理解を得られたこと
- DIPファイナンスを受けることができたこと
- シナジー効果を最大限に発揮できるスポンサーが現れたこと